副社長は今日も庇護欲全開です
「はい。今から向かえばいいですね?」

「ああ。副社長には伝えてあるから」

課長の言葉に頷いて、副社長室に向かう。裏階段を駆け上がる足が、自然と速くなっていった。

土曜日のお礼ももう一度伝えたいし、会えるのを楽しみに思う自分がいる。

フロアに着き、心を落ち着かせながら副社長室を目指していると、人影が見えた。

一人は副社長で、もう一人は……誰だろう? 五十代くらいの恰幅のよいおじさまで、副社長と談笑している。

副社長が男性に対して遠慮気味なところを見ると、立場が上の人のようだ。

どうしよう……。声をかけられないな……。でも、副社長室に来るように言われているわけだし、引き返すのもためらわれる。

困って足を止めていると、男性が私に気がついた。

「きみは?」

男性の声かけに、副社長も私のほうに目を向ける。それが鋭い視線で、思わずたじろいてしまった。

「あ、あの……。副社長との打ち合わせに来まして……」

しどろもどろになって恥ずかしい。でも最近は、彼の優しい眼差しばかり見ていたからか、冷たい視線に驚いてしまった。

でもこれが、社内での副社長の姿……。
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