副社長は今日も庇護欲全開です
副社長から依頼された質問項目の紙は、その日には終わり、翌日彼の元へ届けにいった。

「よろしくお願いします」

なんだか緊張するな……。副社長は、どうして急に素っ気ない態度になったんだろう。

と考えながら、これが彼の基本形だったと思い出す。

副社長と距離を縮められた気がしていたのは、私だけだったのかもしれない。

これまでに私にかけてくれた言葉には、深い意味はなかったんだ。

それなのに、私が勘違いしていただけ……。

「ありがとう。早く対応してもらえて助かったよ」

「いえ。お役に立てればいいのですが……」

チクッと痛む心を自覚しながら、副社長にお辞儀をし部屋を出ようとすると、彼に呼び止められた。

「下村さん、ちょっといいか?」

「はい。大丈夫です……」

なにか伝え忘れかなと思いつつ、デスクまで引き返す。すると副社長は、数秒間を置いて言った。

「今週の土曜日も、会えないか? 話したいことがあるんだ」

「は、はい。予定はありませんので……」

まさか、また誘ってもらえるとは思っていなくて、驚きを隠せない。

ただ、彼の表情が硬くて、浮かれる気分にはなれなかった。

「毎週、誘ってすまないな。きみの家まで迎えにいく。十一時でいいか?」

「構いません。でも、また迎えにきていただくのは、申し訳ないです……」
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