副社長は今日も庇護欲全開です
副社長はそう言いながら、店へと向かう。私は彼の横を歩き、驚きながら尋ねていた。

「ビーチ側の席とか、そういうのがあるんですか?」

「ああ、一席だけな。眺めもいいし、とてもゆっくり感じられる場所たよ」

「そうなんですか……」

どんな雰囲気のお店なんだろう。期待で胸を膨らませながら、彼がドアを開ける。

まるで、個人宅に来たみたい。すると、すぐに品の良い三十代前半くらいの女性が、私たちを出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、真中様。どうぞ、テラスへ」

穏やかな笑みを見せる女性に、副社長は「ありがとう」と紳士的に応えている。

私は彼女に会釈をすると、副社長について歩いた。玄関を入ると目の前には螺旋階段があり、ドアがいくつもある。

本当に誰かの家へ来たみたいで、珍しさに辺りを見回していた。

「お客さんが、見えないですね。それに、店員さんは案内してくれないんですか?」

廊下を歩きながら、副社長に小声で話しかけると、肩越しに振り向いてくれた。

「ここは、プライベート空間重視だから、みんな個室だ。満席らしいから、お客さんはいるよ」

店員さんが案内しないのも、家にいるようなリラックスした雰囲気を感じてほしいからとか。

それを聞いて、感嘆のため息をついていた。

「こういう場所に来たのは、初めてです。なんだか、ワクワクしちゃいますね」
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