副社長は今日も庇護欲全開です
「少し、海でも見る? ここは、風が気持ちいいから」

場の空気を軽くしようとしてくれたのか、副社長はゆっくり立ち上がり私に手を差し伸べた。

ドキドキしながらも、彼の手に自分の手を重ねる。すると、ギュッと握られ引き寄せられた。

「ビーチへ下りられるんだ。少し、散策しないか?」

「はい……」

プライベートビーチが、私たちだけで独り占めできるなんて、なんて贅沢なんだろう。

テラスから階段を降りると、すぐ側がビーチになっている。腕と腕が触れ合って、意識が副社長にばかり向いてしまう。

「海が綺麗だろう? 陽菜は、海は好き?」

「えっ⁉︎」

彼の言葉が頭に入ってこなくて、なにかを聞かれたのに内容が分からない。

すると、副社長はクスッと笑った。

「海は好きかって聞いたんだ。どうした? なにか気がそぞろになってる」

「すみません……。こういうの、あまり慣れていなくて……」

「こういうの?」

怪訝な顔をする副社長に、私は恥ずかしく感じながらも答える。

「海でデートって、経験ないんです……」

子供じみたことを言っているなと思っている。でも、女性のエスコートに慣れている雰囲気の彼に、私は心を乱されっばなしだった。
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