泣き跡に一輪の花Ⅱ~Victim or Notice~。


 潤がトレイを持って、テーブルのそばにくる。トレイの上には、肉じゃがが入った皿と、サラダの入った皿。それに白米が入った茶碗と、味噌汁が入ったお椀と、麦茶を入れたコップと箸が置かれていた。

「はい。そんなに浮かない顔して、どうした? なんで喧嘩したんだ?」

 潤はトレイをテーブルの上に置いてから俺の隣に来て、首を傾げた。

「飯ありがと。……ベランダで奈々絵のこと考えながら煙草吸ってたんだよ。そしたら母さんがご飯できたって言うから、服を取り替えようとしたの。それで着てた服を洗濯機で洗ってたら、俺が服を洗ってるのに気づいた母さんが声をかけてきて」

「煙草の匂いに気づいて、空我を心配してきたんだな?」

「……うん。でも俺、母さんに相談したくなかったから、話さなかったんだよ。そしたら母さんがめっちゃ悲しそうな顔してきたから、俺ムカついて。……母さんに、被害者ヅラすんなよって言っちゃった」


「……うわぁ、最悪。別に母親の味方になる気は無いけど、それはさすがに酷いわ」

 ご最もな意見だ。本当に酷いことをした。


「……俺、一生母さんと仲良くなれないのかなぁ。……別に母さんがあからさまに嫌そうな顔をして煙草吸ったって聞いてきた訳じゃないんだよ。……それなのに俺、ただ心配してくれただけなのにあんなこといって、本当に最悪だよな」

「……暗くなりすぎ。そんなに思い詰めんなよ。前に言っただろ。仲良くなりたくないなら、無理に仲良くしなくていいって」

 潤が俺の背中を撫でて、優しい声音でいう。

「……俺は仲良くなりたいんだよ。……母さんと父さんと、普通の暮らしがしたい。3人でどうでもいい話しながら笑ってご飯食べたりして、楽しく過ごしたい」


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