泣き跡に一輪の花Ⅱ~Victim or Notice~。
母さんは医者だから、深夜から朝までしか家にいなかった。
その短い時間の中でされる暴力は、俺の人生をいとも容易く粉々に打ち砕いた。
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俺は起き上がり、毛布で傷を隠しながら言う。
「……最初はね、花瓶が足元に降ってきた。花瓶投げる前、母さん電話しててさ。たぶんそれ、転勤してた親父との電話だったんだよね。俺が自分の子供じゃないって気づいて、離婚とか持ちかけられたんじゃないかなぁ。……そりゃあ暴力振るいたくもるよな。その原因が目の前にいたら」
自嘲気味に、俺は言った。
「……まぁ、そんなことするくらいなら産むなよって思うけどな。花瓶が降ってきた日の翌日に頭殴られてさ。……それが、生まれて初めてできた痣だった。
……色々されたよ。手足や腹殴られたり、蹴られたり、固いもので殴られて骨折させられたりとか。トイレに三日間閉じ込められたり、家の鍵奪われて、当分帰って来ないでって言われたりとか」