泣き跡に一輪の花Ⅱ~Victim or Notice~。
目を見開いた俺を見て、奈々絵は小馬鹿にするように笑った。
「ハッ……なんて顔してんだよ」
喉仏から絞り出された声は震えていて、奈々絵はとても悲しそうだった。
「……奈々絵、もうやめろよ。
人殺しなんて言うな。……姉は好きでお前を庇ったんだから」
俺がそう言うと、奈々絵は顔を俯かせた。
「……俺には、庇われる価値なんかなかった。たぶん、下級生とか上級生とか、同級生とかそういうの問わず学校中が俺を嫌ってた。
…………親も親戚もだ。
不器用で愛想もない俺を、
みんなみんな気持ち悪い奴だって笑ってた。俺と同じいじめられっ子の女も、きっと愛想悪いって思ってた。
…………それなのに、なんでっ。
…………なんで姉ちゃんだけは、俺を嫌わなかったんだよ。なんでいつもいつも、俺に眩しすぎるような笑顔ばっか浮かべてたんだよ。
俺には、……そんなことをされる価値もないのに」