記憶がどうであれ
37話
「君に酷いことをした…謝っても許される事ではないと解っている…
それでも俺は君に感謝してる、天野さんへの想いを捨てる勇気を貰ったから」
何が勇気? 好きかそうではないかなんて自分の心ひとつで決まる事だ。
私は何も言わず怪訝な顔で彼を見た。
「君を忘れることが出来なかった…自分にとって大切にするべき人だったのだと後悔ばかりした」
大切にするべき人…そんなの今さらだ。
「天野さんへ持っていた想いとは違う温かな気持ちを持てていたのに…どうして俺はあの時に復讐なんてしようと思ったのか…
後悔しても遅いことは解って居るけれど…俺にチャンスをくれないかな?」
自分勝手な言い分ばかり言っていたくせに急にしおらしくなって…
そういう自信なさげな雰囲気に弱いのだ。
こちらの気持ちを考えてくれている風に見えてしまう…
だけど、彼は解ってない。
私は彼女へ向けた想いを自分にも向けて欲しかった。
居心地が良いから一緒にいる関係よりも、激しく愛されたかった。 他の誰でもなく貴方に…
「君は好きでもない男に抱かれる人じゃないよね?」
私が自分を好きなのだと認めさせたいのだ。
私が誰にでも抱かれる女では無いと言えば、自分を好きだからセフレで居られたのだと言いたいのだろう。
無言でいると、
「君を大切にする。 一生かけて償っていく。
お願いだから俺を選んで。二人で幸せになろう?」
たたみかけるように愛を囁く。
「幸せってなんだと思ってるの?」
「愛する人と一生一緒に居られること」
「私にとっての愛する人が自分だとでも言いたいの?」
「そうだったら良いなとは思ってる」
「貴方の愛する人は私だと本当に言えるの?」
声が震える。
「言えるよ。 そこは自信あるんだ」
くしゃりと笑う彼。
そんな素敵な笑顔見せないで。
その笑顔が好きになるきっかけだったと思い出してしまう。
涙が溢れる。 どうしてなのか分からない。
「結婚したって愛は一生では無いでしょ。
愛なんて…いつか消える。
貴方が奥さんへの愛情がなくなったのが証拠でしょ?
あんなに愛していたのにその愛はなくなった…違う?」
それに私は愛が突然消えることも知っている。
「だから愛してると言われても結婚はしない」
涙目のまま彼を睨む。
「…君はいつも正しい。 愛は一生ではないのかもしれない」
そこで一度言葉を区切り彼は続ける。
「君があの男の記憶喪失が原因で離婚したというのは解ってるし、だからこそ愛は一生では無いと言ってることも理解してる。
でも、俺とあの男とでは決定的に違う事があるんじゃないかな」
決定的な違い?
「君が結婚した時にあの男へ持っていた想いと、今俺へ持っている想いの違いだよ」
…自信があるのだろう。 私が彼を好きだと思っていることに。
「愛情って消えるばかりなのかな? 育んで大きくなるんじゃないのかな。
確かに俺は天野さんへの愛は無くなった。
だけどそれは無くして当然の環境になったから。 結婚していた時に愛情が無くなった訳じゃないんだ…」
それは解っているけれど。
「それに環境が変わるにつれて愛情の形も変わっていくと思う」
「愛情の形?」
「子供ができたら男女の愛だけじゃなくて家族としての愛情も出てくると思わない?」
「子供…」
元主人とは子供について話はしていなかった。 自然にまかせる…と言いながら避妊を続けていた。
そろそろ子供を…というタイミングはまだ先のような気がしていたから。 なんと言っても出会ってから結婚までが早かったのだから。
「子供、欲しいと思ったことは無い?
俺は欲しい。 君によく似た子がいいな」
「私に似た子なんて可愛げない! 貴方に似た方が子供は幸せよ」
「俺に似た子が幸せ?」
「そう」
だって整った顔だもの。
「そっか、俺の子産んでくれるんだ」
彼のニコニコの笑顔。
なんだか嵌められた気がする。
「幸せな家族に憧れるならやっぱり結婚を諦めちゃだめだと思う。
これから俺の家族と仲良くしてくれたら俺も幸せなんだけど」
「無理よ。 私…気に入られる要素なんてないもの」
「気に入るよ…俺が幸せそうにしているってだけで親は手放しで喜んでくれる」
…彼は彼女との結婚の時もそれはそれは幸せな顔をしていただろう。
でも、結婚生活は無理をしていたのだろう。ご家族はそんな彼を不憫に思っていたのかもしれない。
初めから子供は産まないと言われたと言っていた。
それが夫婦二人の思いなら良いけれど、彼の本心は子供を諦めてまで欲した彼女に愛されなかったストレスは大きかっただろう。
「奥さんは…子供を産まないと言ったんでしたね。
私なら子供を産んでくれそうだから、結婚したいんですか?」
「また話し方が他人行儀になった…
違うよ。絶対に産んでくれとは言ってない」
「もしかしたら子供ができないかもしれないじゃないですか。 それでも私を必要だと思いますか?」
「確かに俺にとって君は必要で大切な人だけど、便利とかそういう意味じゃ無いから!」
「何が違うんですか!? 結局貴方にとって都合のいい女なんですよね私は」
「違う!!! 都合がいいってどこが?
こんなに難攻不落な相手はいないよ」
…そうなのかもしれない。 私でなければもっと簡単に結婚を了承するだろう。
「私、傲慢な人は苦手なんです。
奥さんが嫌っていた自信のない貴方を好きでした…今日の貴方は傲慢です」
「傲慢!? 必死なだけなんだけど…
君に俺に好意があると認めて欲しいと懇願したつもりなんだけど、傲慢にみえたかな。
ごめん」
腰をしっかり折った謝罪の姿勢。
彼は謝ることに抵抗が無いのかな…
「でも…貴方の笑顔は好きです」
それでも俺は君に感謝してる、天野さんへの想いを捨てる勇気を貰ったから」
何が勇気? 好きかそうではないかなんて自分の心ひとつで決まる事だ。
私は何も言わず怪訝な顔で彼を見た。
「君を忘れることが出来なかった…自分にとって大切にするべき人だったのだと後悔ばかりした」
大切にするべき人…そんなの今さらだ。
「天野さんへ持っていた想いとは違う温かな気持ちを持てていたのに…どうして俺はあの時に復讐なんてしようと思ったのか…
後悔しても遅いことは解って居るけれど…俺にチャンスをくれないかな?」
自分勝手な言い分ばかり言っていたくせに急にしおらしくなって…
そういう自信なさげな雰囲気に弱いのだ。
こちらの気持ちを考えてくれている風に見えてしまう…
だけど、彼は解ってない。
私は彼女へ向けた想いを自分にも向けて欲しかった。
居心地が良いから一緒にいる関係よりも、激しく愛されたかった。 他の誰でもなく貴方に…
「君は好きでもない男に抱かれる人じゃないよね?」
私が自分を好きなのだと認めさせたいのだ。
私が誰にでも抱かれる女では無いと言えば、自分を好きだからセフレで居られたのだと言いたいのだろう。
無言でいると、
「君を大切にする。 一生かけて償っていく。
お願いだから俺を選んで。二人で幸せになろう?」
たたみかけるように愛を囁く。
「幸せってなんだと思ってるの?」
「愛する人と一生一緒に居られること」
「私にとっての愛する人が自分だとでも言いたいの?」
「そうだったら良いなとは思ってる」
「貴方の愛する人は私だと本当に言えるの?」
声が震える。
「言えるよ。 そこは自信あるんだ」
くしゃりと笑う彼。
そんな素敵な笑顔見せないで。
その笑顔が好きになるきっかけだったと思い出してしまう。
涙が溢れる。 どうしてなのか分からない。
「結婚したって愛は一生では無いでしょ。
愛なんて…いつか消える。
貴方が奥さんへの愛情がなくなったのが証拠でしょ?
あんなに愛していたのにその愛はなくなった…違う?」
それに私は愛が突然消えることも知っている。
「だから愛してると言われても結婚はしない」
涙目のまま彼を睨む。
「…君はいつも正しい。 愛は一生ではないのかもしれない」
そこで一度言葉を区切り彼は続ける。
「君があの男の記憶喪失が原因で離婚したというのは解ってるし、だからこそ愛は一生では無いと言ってることも理解してる。
でも、俺とあの男とでは決定的に違う事があるんじゃないかな」
決定的な違い?
「君が結婚した時にあの男へ持っていた想いと、今俺へ持っている想いの違いだよ」
…自信があるのだろう。 私が彼を好きだと思っていることに。
「愛情って消えるばかりなのかな? 育んで大きくなるんじゃないのかな。
確かに俺は天野さんへの愛は無くなった。
だけどそれは無くして当然の環境になったから。 結婚していた時に愛情が無くなった訳じゃないんだ…」
それは解っているけれど。
「それに環境が変わるにつれて愛情の形も変わっていくと思う」
「愛情の形?」
「子供ができたら男女の愛だけじゃなくて家族としての愛情も出てくると思わない?」
「子供…」
元主人とは子供について話はしていなかった。 自然にまかせる…と言いながら避妊を続けていた。
そろそろ子供を…というタイミングはまだ先のような気がしていたから。 なんと言っても出会ってから結婚までが早かったのだから。
「子供、欲しいと思ったことは無い?
俺は欲しい。 君によく似た子がいいな」
「私に似た子なんて可愛げない! 貴方に似た方が子供は幸せよ」
「俺に似た子が幸せ?」
「そう」
だって整った顔だもの。
「そっか、俺の子産んでくれるんだ」
彼のニコニコの笑顔。
なんだか嵌められた気がする。
「幸せな家族に憧れるならやっぱり結婚を諦めちゃだめだと思う。
これから俺の家族と仲良くしてくれたら俺も幸せなんだけど」
「無理よ。 私…気に入られる要素なんてないもの」
「気に入るよ…俺が幸せそうにしているってだけで親は手放しで喜んでくれる」
…彼は彼女との結婚の時もそれはそれは幸せな顔をしていただろう。
でも、結婚生活は無理をしていたのだろう。ご家族はそんな彼を不憫に思っていたのかもしれない。
初めから子供は産まないと言われたと言っていた。
それが夫婦二人の思いなら良いけれど、彼の本心は子供を諦めてまで欲した彼女に愛されなかったストレスは大きかっただろう。
「奥さんは…子供を産まないと言ったんでしたね。
私なら子供を産んでくれそうだから、結婚したいんですか?」
「また話し方が他人行儀になった…
違うよ。絶対に産んでくれとは言ってない」
「もしかしたら子供ができないかもしれないじゃないですか。 それでも私を必要だと思いますか?」
「確かに俺にとって君は必要で大切な人だけど、便利とかそういう意味じゃ無いから!」
「何が違うんですか!? 結局貴方にとって都合のいい女なんですよね私は」
「違う!!! 都合がいいってどこが?
こんなに難攻不落な相手はいないよ」
…そうなのかもしれない。 私でなければもっと簡単に結婚を了承するだろう。
「私、傲慢な人は苦手なんです。
奥さんが嫌っていた自信のない貴方を好きでした…今日の貴方は傲慢です」
「傲慢!? 必死なだけなんだけど…
君に俺に好意があると認めて欲しいと懇願したつもりなんだけど、傲慢にみえたかな。
ごめん」
腰をしっかり折った謝罪の姿勢。
彼は謝ることに抵抗が無いのかな…
「でも…貴方の笑顔は好きです」