君ともう一度 あの春を迎えよう
「うしっ、

中山、GOだ。

あのこの上なく無愛想なヤローの隣でやりづらいだろうが、
まあ、悪ぃ奴じゃねぇからな。」

「は、はいっ。」

いつまでも失礼な奴らだ。

丸聞こえだ。

いや、隠すつもりもないか。

と、転入生・・・中山、だったか。

そいつがとことこ歩いて来た。

音を立てないようにしているのか?

そっと椅子を引き、

これまたそっと座った。

「……。」

「……。」

暫く沈黙が続いた。

…と思ったら、その転入生がそっと俺に視線を向けた。

そして、困ったような表情をして話しかけてきた。


「あ、あの……っ」

「……なに。」

「ご、ごめんね…?」

「……なにが。」

「いや、えっと…、
あたしが、隣の席に、なっちゃったから…。」

「……だから?」

「えっ?
えっと、その…、
…嫌そうに、見えた、から…。
だから…ごめんなさい……。」

……全身から警戒してるオーラが発せられている。

ビビっているんだろうけど、そこまで警戒しなくてもいいと思う。

話し方が控えめだ。

すると、またそいつが口を開いた。

「…いや、だったよね…?」

申し訳なさそうに眉を下げ、泣きそうな顔をして話しかけてくるそいつに、何故か腹が立った。

「うん。
嫌だ。」

「…っご、めんなさ」

「嫌だけどさ」

俺がそいつの謝罪を遮り話し続けると、そいつも口を閉ざした。

「確かに嫌だけど。
俺まだ何も言ってないし、何もしてないのに、
勝手にビクビクされんの、腹立つ。」

「……っ、ごめんなさ、」

「はあ…。俺の何が怖いわけ?」

「えっ、……その、」

「ああ、もういい。
聞かないから、普通にしてくれないかな。
うざいし、失礼だと思わないの、その態度。」

「……っごめ、」

「だから、謝るな。
俺は何もしてないし、お前も何もしてない。
それでいいだろ。
俺はお前に興味なんてないし、これからも何かするつもりないから、面倒な事するな。」

「……わ、かった。」

分かりやすく落ち込むそいつ。

…そんな風にされると、こっちまでしんみりしてくる……、
なんてことは当然ないけれど。

「……チッ。」

「あっ、……ごめん。」

俺の無意識な舌打ちに反応して、そいつは謝ってくる。

「……だから、何度言えば分かるわけ。
謝られんの不愉快。」

「えっ。
…でも、何かしちゃったかなって…。」

「何をしたって言うんだよ…。
何もしてないだろ。
……本当、ウザイ。」

「……っ。」

放っておくつもりだったけど、それじゃダメだ。

きちんと言っておいた方が良さそうだ。

「お前、俺と必要以上に関わるな。」

「……え?」

「いいな。」

「……どうして…」

「関わるのが面倒臭いから。
話すことなんてないから。
俺は一人でいたいから。
ウザイから。
これで納得してくれると助かるんだけど。」

「……な、んで、そんなこと言うの……?」

「……“なんで”?
これだから嫌なんだ。
ウザイからって言ってるだろ。
それとも他に理由を作った方がいいか?」

「……あたしは、佐倉君と、仲良くなりたいと思って……」

「俺は思ってない。」

「でも…っ」

「自分の都合を押し付けるのとか、
本当にやめて欲しいんだけど。」

「そんな……っ」

「言っただろ。
俺はお前とどうこうなるつもりは無い。友達にもな。
興味もない。
関わりたくもない。
そんな相手と仲良くなる?
無茶言うなよ。」

「なっ……」

「大体、俺と仲良くなりたいとか思ってる時点で、嘘くさいんだよ。
まだ会ったばかりなのに、何も知らないのに。
誰にでもいい顔して楽しいのか知らないし、知りたくもないけど。
つまらない人生だな。」

俺がふっと鼻で笑うと、
そいつは流石に癪に障ったようで、口調が変わった。

「意味わからない。どうしてそこまで言うの?
出会った人と仲良くなろうとして、何が悪いの?」

「はあ?
別に悪いとは言ってないだろ。」

「言ってるようなものでしょ。」

「言ってない。
ただ、つまらないって言っただけだ。自意識過剰だな。」

「ほら、そうやってすぐ中傷的なことを言う。
失礼なのは佐倉君の方だよ。
あたしはあたしなりに生きてるのに、あなたにつべこべ言われる筋合いないわ。」

「そう。
まあ、お前の生き方なんて知る由もないし、そこまで俺のこと気に食わないなら関わらないで。
利害が一致して好都合なんだけど。」

「っ、そうやって、どうしてあたしを否定するの?」

「してない。」

「してる。
あたしを嫌がってる。あたしは、あなたを嫌いだなんて言ってない。
それに、自分の都合を押し付けてるのは、佐倉君じゃないの?自分で言ってて気づかないの?」

さっきまでと違う。

あの、弱々しい瞳じゃなく、俺の奥の方まで見透かされているような、まっすぐな瞳。

その瞳が……。

どうしようもなく、嫌いなんだ。

その瞳を向けられると、思い出してしまう。

俺の大切な人は、皆同じ、

まっすぐ澄んだ瞳をしていたから。

俺はふつふつと湧き上がる何かに蓋をして、
その気持ちを、転入生への怒りだと言い聞かせることで、必死に自分を保った。

その気持ちの矛先は、当然転入生に向いている。

「何が言いたいんだ。」

「……佐倉君は、もっと人と向き合うべきだよ。」

「……はっ?」

言葉も出ないほど、意味のわからないことを言ってきたそいつ。

「っ偉そうに言うな。
何も知らないくせに。」

「そうだよ。
何も知らないよ。
何も知らないし、何も分からない。」

「だったら……、」

「でも……、
佐倉君は、一人でいたいって、
近づくなって思ってるみたいだけど、
……なんか、寂しそうだよ。」

「……は?」

寂しそう……、って、言ったのかこいつ。

「俺が……?
寂しそう……?
ふざけるな。」

「ふざけてない。
佐倉君の為に言ってるの。」


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