薄羽蜉蝣
第三章
随分暑くなったある日、佐奈は与之介の部屋を訪ねた。
お駒のところで夕餉を一緒に食べてから、何度か総菜の差し入れもし、そのうち部屋を訪ねるのも緊張しなくなった。
というのも、与之介の部屋には、大抵誰か子供がいるからだ。
その日も部屋では、与之介と子供たちが、そこいらに転がって寝息を立てていた。
「あ~あ……。おかみさんたちだって一応女性だっていうのに、だらしないんだから……」
開け放たれた障子からは、部屋の中が丸見えだ。
子供はもちろん、与之介までが浴衣を大きく乱して転がっているのだ。
ここでは自分は若い男だということを自覚して欲しいものだ、と思いながら、佐奈は持ってきた瓜を置いて、部屋の中を眺めた。
ふと、その目が部屋の隅に立てかけてある刀に吸い寄せられる。
刀を持っているということは、やはり侍なのだ。
剣術は、どの程度なのだろう。
以前おせんに散々馬鹿にされていたが、怒らないということは、当たらずとも遠からず、といったところなのだろうか。
それにしても、未使用というのは本当なのだろうか。
そんなことを考えていると、ふ、と鼻の奥に刺すような血の臭いが漂ったような気がして、佐奈は激しく頭を振った。
「……ん?」
目を覚ました与之介が、むくりと上体を起こした。
上がり框に座っている佐奈を認めても、特に驚かない。
「あ~、よく寝た」
思い切り腕を突き上げて、伸びをする。
その声に、子供たちも目を覚ました。
お駒のところで夕餉を一緒に食べてから、何度か総菜の差し入れもし、そのうち部屋を訪ねるのも緊張しなくなった。
というのも、与之介の部屋には、大抵誰か子供がいるからだ。
その日も部屋では、与之介と子供たちが、そこいらに転がって寝息を立てていた。
「あ~あ……。おかみさんたちだって一応女性だっていうのに、だらしないんだから……」
開け放たれた障子からは、部屋の中が丸見えだ。
子供はもちろん、与之介までが浴衣を大きく乱して転がっているのだ。
ここでは自分は若い男だということを自覚して欲しいものだ、と思いながら、佐奈は持ってきた瓜を置いて、部屋の中を眺めた。
ふと、その目が部屋の隅に立てかけてある刀に吸い寄せられる。
刀を持っているということは、やはり侍なのだ。
剣術は、どの程度なのだろう。
以前おせんに散々馬鹿にされていたが、怒らないということは、当たらずとも遠からず、といったところなのだろうか。
それにしても、未使用というのは本当なのだろうか。
そんなことを考えていると、ふ、と鼻の奥に刺すような血の臭いが漂ったような気がして、佐奈は激しく頭を振った。
「……ん?」
目を覚ました与之介が、むくりと上体を起こした。
上がり框に座っている佐奈を認めても、特に驚かない。
「あ~、よく寝た」
思い切り腕を突き上げて、伸びをする。
その声に、子供たちも目を覚ました。