薄羽蜉蝣
「与之ぉ、氷買って~」

「小豆茹でて~」

 目が開いた途端、ガキどもは与之介に甘えだす。

「ここに食材がねぇのは先刻承知だろ。さ、帰った帰った」

 無慈悲にばっさり切り、与之介は子供たちを追い立てた。

「さて今日は、瓜かぁ。冷てぇな」

 早速手を伸ばして、瓜を口に運ぶ。
 瓜はすでに、綺麗に切られているから、すぐに食べられるのだ。

「ここで切ろうにも、包丁もないんですもの」

 与之介の部屋で刃物といえば刀しかない。

「まさか刀で切るわけにもいきませんしね」

 そもそも武士の刀でそのようなこと、許されることではない。
 佐奈が言うと、与之介は、ふふ、と笑った。

「本当にあの刀、使ったことはないのですか?」

 聞いてみると、与之介は、ちょっと視線を上げた。

「それは、人を斬ったことがあるか、ということか?」

 少し雰囲気が変わる。
 もしかして、と思い、佐奈は黙り込んだ。

 与之介が手を伸ばし、刀を手に取る。
 ち、と鯉口を切ると、すらりと刀身を晒した。
 青白い刀身が、佐奈の目を射る。

---あっ……?---

 何かが心に引っかかった。
 そのとき。

 ちりん---。

 どこからか、風鈴の音がしたような気がし、ぱっと佐奈は勢いよく振り向いた。

「どうした?」

 顔を戻せば、与之介が、きょとんとした顔で佐奈を見ている。
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