薄羽蜉蝣
 その夜、けたたましい半鐘の音に、与之介は目を覚ました。
 外に出てみると、長屋の住人も何人か起き出してきていた。

「ありゃあ、どの辺だい」

「ちょっと離れじゃないかね」

 火元はそう近くない。
 遠くの空が、ぼんやり明るくなっている程度だ。
 ここまで燃え広がることはないだろう、と皆安心し、各々家に戻っていく。

 与之介もしばらく明るい空を眺め、踵を返した。
 家に入ろうとし、ふと目を上げると、斜向かいに佇む佐奈がいた。

 険しい目で、じっと火元の空を眺めている。
 やがて佐奈も、障子の向こうに消えた。
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