薄羽蜉蝣
「与之ーっ! 引っ張られる~~」

「こっちは揚がらないよ~っ」

 河原に甲高い声が響いている。
 空へと目をやれば、いくつかの凧が、ふよふよと浮いている。

 外に出られなかった間、子供たちと作った凧だ。
 当然出来上がれば揚げたくなるということで、子供たちにせがまれ、河原までやってきた。

「少々引っ張られたところで、持っていかれるわけじゃねぇ。ほれ、踏ん張れ。朝太郎は貸してみな」

 ぎゃあぎゃあ喚くガキどもの間を駆け回る与之介を、少し離れたところから、佐奈は眺めた。
 たまたま皆が河原に行くところに出くわし、誘われたのだ。

「おじちゃん~、揚がらないよぅ~」

 泣きべそをかく風太の傍に寄り、佐奈は凧糸を受け取った。

「こうやって、思いっきり走ってごらん」

 教えてやると、風太はこくりと頷き、ててて、と走り出す。
 が、まだ小さいため、凧はひたすら引き摺られるだけだ。

「しょうがない。貸してごらん」

 佐奈は立ち上がり、風太から糸を受け取ると、た、と走り出した。
 しばらくすると、ふわ、と凧が浮かび上がる。

「やったぁ~」

 風太の声に振り向いた途端、がく、と足が取られた。
 河原は足場が悪いのだ。

「あっ」

 と思ったときには、佐奈の身体は大きく傾いでいた。
 だが、次の瞬間には、ばす、と受け止められる。

「危ねぇなぁ。こんなところで転んじゃ怪我するぜ」

 すぐ近くで、与之介の声がする。
 佐奈の目に映るのは、与之介の腕。
 佐奈はしっかりと、与之介に抱き留められていた。
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