薄羽蜉蝣
「す、すみません!」

 真っ赤になって、がばっと身体を戻そうとするが、元々倒れそうになった佐奈を咄嗟に支えたため、与之介の体勢も不安定だった。

「うわっ」

 一声上げ、佐奈もろともそのまま後ろに倒れ込む。
 倒れてしまったので、先ほどよりもさらに、二人は密着する羽目になった。

「あたたた。どうした、お佐奈さん。足でもやったか?」

 佐奈の下で、与之介が呻く。
 最早佐奈は、ふるふると震えて身動きできない。
 そこに、朝太郎がにじり寄った。

「おっちゃん、いつまで佐奈お姉ちゃん抱っこしてるのさ」

 ぷぷぷ、とからかうように笑う。

「独り者だから、おっちゃん、佐奈お姉ちゃんを狙ってんの」

 子供故、深い意味なしにからかうのだが、佐奈は慌てて起き上がった。

「あ、朝太郎ちゃん! 何てこというの」

「あー、お姉ちゃん真っ赤だ~」

 他の子供たちまでが、二人をからかいながら、その辺を走り回る。

「おいこらお前ら、あんまり勝手なこと言うなよ。お佐奈さんに構えられるだろ」

「あー、やっぱり狙ってるんだー」

「お姉ちゃん、与之でいいのー?」

 軽く応じた与之介に、またも子供たちが騒ぎ出す。

「与之、告白しちゃえ~」

「言っちゃえ言っちゃえ」

「馬鹿。こういうことは、こんなところで言うもんじゃねぇ」

 囃し立てる子供たちを軽くかわし、与之介が立ち上がる。
 ついでに、佐奈の手を取って引き起こした。
 強い力に、また佐奈の熱が上がる。

 さりげなく、与之介はそのまま皆を促し帰路についた。
 繋がれた手に、佐奈は小さな幸せを噛みしめながら、賑やかに前を行く子供たちについていく。
 そんな二人を、おせんだけが唇を噛みしめて見つめていた。
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