薄羽蜉蝣
「へ、甘ぇぜ! そんな間合いで抜いたって、刀は届かねぇ!」

 匕首を飛ばしただけで、与之介の刀は空を切った。

「おめぇを殺るにゃ、素手で十分!」

 弥七はそのまま、与之介に飛び込んでくる。
 だが。

 どす、という音と共に、弥七の動きが止まった。

「……あ?」

 大口を開けたまま、弥七は頭から匕首を生やして突っ立っている。

「すぐには死なねぇ。苦しむがいいぜ」

 ちん、と納刀し、与之介が踵を返す。
 そのとき。

 がさ、と音がし、佐奈が現れた。
 与之介の動きが止まる。

「お、お佐奈さん……」

「与之さん……。今の技は……」

 相手の武器を弾いて、それを突き刺す。
 今の弥七は、あのときの父の姿そっくりだ。

「まさか、まさか……」

「お佐奈さん」

 思わず伸ばした与之介の手を、佐奈は振り払った。
 そしてそのまま、身を翻して駆けていく。

 雲が流れ、細い上弦の月の弱い光が落ちてきた。
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