薄羽蜉蝣
 とある昼下がり。
 いつものように子供たちの相手をしていた与之介は、ふと長屋の表が騒がしくなったのに気付いた。

「何、なに?」

 子供たちがわらわらと土間に降り、外を見る。
 与之介も土間に降り、子供たちの頭上から外を覗いてみた。

 長屋の入り口付近に、嬶ぁどもが集まっている。
 大家の源六(げんろく)の姿もあった。

「母ちゃん、どうしたの」

 おせんが母親を見つけ、たた、と駆け寄っていく。

「新しく仲間に入るってお人だよ。与之さんも」

 手招きされ、与之介は表に出た。

「こちらはまぁ……子供たちの遊び相手さね。この長屋じゃ珍しく若い男だけど、残念ながら、うだつは上がらないね」

 けらけらと笑いながら紹介された与之介は、嬶ぁどもの先にいる女子に目を止めた。
 このような裏店に住むようには見えない、凛とした娘がこちらを見ている。

 ふと、与之介は既視感を覚えた。

「可哀想に、親を亡くして表店にいられなくなったらしいよ」

 別の嬶ぁが言うが、当の娘が、それを制した。

「一人になったのは、三年も前です。お気になさらず」

 強い瞳で言い放つ。
 何かを秘めた瞳だな、と、与之介は思った。
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