薄羽蜉蝣
「まぁなぁ。娘さんからしちゃ、親を殺されてるんだ。殺しても飽き足らねぇ仇だろうよ」

「そんなことは……」

 思わず言いかけ、佐奈は口をつぐんだ。
 そんなことはない、と言えるだろうか。

 が、一方で、そこまでの強い恨みは持っていない、とも思うのだ。
 親を殺されているのに、そんな風に思うのは不謹慎だろうか。

「なぁ娘さん。あんたはやっぱり、新宮様を許せねぇかい?」

 存外に優しい声で、親父が佐奈に問うた。

「娘さんの個人的な気持ちでよ、新宮様のことは、どう思ってんだい? 好いちゃいるが、親を殺した相手だから、そんな風に思うことは許されねぇと思うのかい? それとも、端からそんな仇を好いちゃいないかい?」

 うーん、と佐奈は考えたが、考えれば考えるほど苦しくなる。

「与之さんは、私に仇を許すな、と仰いましたよ」

「そりゃ、建前さね。新宮様は、玄八を斬ったことは後悔してねぇ。端から娘さんの親父だってわかってたって斬ってたぜ。新宮様は、そう言うことで自分の気持ちに歯止めをかけようとしたのさ。おそらくそう言ったのぁ、新宮様が、娘さんの親父が玄八だって気付いたときだろう?」

 少し考え、佐奈は頷いた。
 佐奈が与之介に己のことを語ったとき、与之介は気付いたのだ。

「あ、なるほど。お佐奈ちゃん、それ言ったときの与之さん、苦しそうだったって言ってたね。ははぁ、なるほどね。そら苦しいわな、すっかりお佐奈ちゃんの虜になっちまってたんだもの」

 ぽん、と手を叩き、お駒が明るい声を出す。
 なるほど、そうだったのなら確かに合点がいく、と思い、佐奈はほのかに赤くなった。

「ふふ、そういうこった。新宮様も、裏の顔は非情な始末人のわりに、自分のこととなると、とんとお子様だ。恰好つけたわりに、自分の気持ちに歯止めなんざ全く効いてねぇ。現にあれ以来、すっかり腑抜けになっちまった」

「え、与之さん、どこにいるのかご存じなんですか?」

 がばっと佐奈が身を乗り出した。
 少し仰け反り、親父はまた、ふふ、と笑う。

「そりゃあな。仕事の繋ぎもあるし、居所は常に把握してるさ」

「教えてください!」

 勢い込んで言う佐奈に、親父はまた、少し鋭い目を向けた。

「……何故だい?」
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