薄羽蜉蝣
夜、佐奈が夕餉を作っていると、ひょこりと与之介がやってくる。
「うう、さぶ。やっぱり火のある部屋は違うな」
「一体今までどうやって冬を越してたんです」
竈に張り付く与之介を奥へ追いやり、佐奈は手早く二人分の膳を作る。
二人で膝を突き合わせて夕餉を取る。
最近の日常になっている。
「確かにこのまま冬になったら、あの部屋に一人じゃ辛ぇなぁ」
佐奈が与之介のために用意した酒を舐めながら、ぽつりと言う。
そして、ちらりと佐奈を見た。
「こっちをあっちと、どっちがいい?」
くい、と顎で自分の部屋を示す。
少し、佐奈の顔が赤くなった。
「う、う~ん……。与之さんの部屋のほうが、日当たりはいいかもしれませんね」
ぼそ、と言うと、そっか、と与之介が笑う。
が、ちょっと渋い顔をした。
「けど俺の部屋にゃ、ガキが飛び込んできやすくなってるからなぁ。ちょっとは勝手の違う、こっちのほうがゆっくりできるかもしれん」
「あはは。確かに皆、与之さんの部屋には目を瞑っても行けるでしょうね」
「折角佐奈と二人でゆっくりしたくても、いつ何時邪魔が入るかわからんな」
しみじみ言う。
二人で、という言葉が、じんわりと胸に染みる。
与之介が帰って来てからも、佐奈は少し不安だった。
目を離したら、またどこかに行ってしまうのではないか。
本気であのまま、同じ部屋に繋ぎとめておきたかったぐらいだ。
与之介が自分の部屋に戻り、日常が戻っても、必ず毎日姿を見ないと不安だった。
そういう佐奈の不安を感じてか、与之介から夕餉に来るようになったのだ。
呼び方も、その頃から変わった。
「まぁ、ガキには慣れておいたほうがいいかもしれんし」
何気ない風に言い、与之介は猪口を置くと、膳を押しやって佐奈に身を寄せた。
「真冬になる前に、どっちかの部屋を引き払おうな」
ぎゅ、とあのときのように、手を握る。
赤い顔のまま、佐奈はこくりと頷いた。
*****終わり*****
「うう、さぶ。やっぱり火のある部屋は違うな」
「一体今までどうやって冬を越してたんです」
竈に張り付く与之介を奥へ追いやり、佐奈は手早く二人分の膳を作る。
二人で膝を突き合わせて夕餉を取る。
最近の日常になっている。
「確かにこのまま冬になったら、あの部屋に一人じゃ辛ぇなぁ」
佐奈が与之介のために用意した酒を舐めながら、ぽつりと言う。
そして、ちらりと佐奈を見た。
「こっちをあっちと、どっちがいい?」
くい、と顎で自分の部屋を示す。
少し、佐奈の顔が赤くなった。
「う、う~ん……。与之さんの部屋のほうが、日当たりはいいかもしれませんね」
ぼそ、と言うと、そっか、と与之介が笑う。
が、ちょっと渋い顔をした。
「けど俺の部屋にゃ、ガキが飛び込んできやすくなってるからなぁ。ちょっとは勝手の違う、こっちのほうがゆっくりできるかもしれん」
「あはは。確かに皆、与之さんの部屋には目を瞑っても行けるでしょうね」
「折角佐奈と二人でゆっくりしたくても、いつ何時邪魔が入るかわからんな」
しみじみ言う。
二人で、という言葉が、じんわりと胸に染みる。
与之介が帰って来てからも、佐奈は少し不安だった。
目を離したら、またどこかに行ってしまうのではないか。
本気であのまま、同じ部屋に繋ぎとめておきたかったぐらいだ。
与之介が自分の部屋に戻り、日常が戻っても、必ず毎日姿を見ないと不安だった。
そういう佐奈の不安を感じてか、与之介から夕餉に来るようになったのだ。
呼び方も、その頃から変わった。
「まぁ、ガキには慣れておいたほうがいいかもしれんし」
何気ない風に言い、与之介は猪口を置くと、膳を押しやって佐奈に身を寄せた。
「真冬になる前に、どっちかの部屋を引き払おうな」
ぎゅ、とあのときのように、手を握る。
赤い顔のまま、佐奈はこくりと頷いた。
*****終わり*****