優しい音を奏でて…優音side
翌日から、奏は、休み時間に1人でいる事が多くなった。
里奈が女子を煽動して、奏と遊ばせないようにしているのは、すぐに分かった。
だから、俺は、昼休みに外へ行くのをやめた。
奏が1人で教室にいるのに、俺だけ呑気にドッヂボールとかできなかったんだ。
奏は、教室で電子ピアノを弾いていた。
「奏ちゃん、俺も弾いていい?」
「いいよ。」
奏は、にこっと笑って、席を譲ってくれた。
俺が、今、バイオリンで習ってる曲を弾くと、奏は、
「もう1回弾いて。」
と言った。
俺がもう一度弾くと、奏は即興で伴奏をつけて一緒に弾いた。
2人で弾く連弾は、とても楽しかった。
それをテストの採点をしながら、担任の先生が見ていた。
それがきっかけだったんだろう。
それから、合唱や校歌の伴奏には、毎回、奏が選ばれるようになった。
俺が、外に行かなくなって3日程経つと、康太(こうた)が、聞いてきた。
「ゆうちゃん、最近、昼休み、何してんの?
お前いないと、ドッヂボール、
盛り上がんないんだけど。」
「教室にいるよ。
まぁ、俺の事は気にしないで遊んでてくれよ。」
その日から、教室で遊ぶ男子が増え始めた。
全く弾けもしないピアノを奏に習う奴もいた。
そんな奴、放っておけばいいのに、奏はニコニコ教えてた。
指をバラバラに動かせない不器用な奴の手を取って教えるのを横で見てる俺は、内心、腹わたが煮えくり返ってた。
だけど、そんな状況に女子が全く気付かないわけもなく、更にいじめが加速するかに思えた。
ところが、女子の中に賢い奴がいて、里奈に言ったらしい。
「奏を1人にすると、男子がチヤホヤするから、
今まで通り女子が一緒に遊んだ方が
得じゃない?」
それから、奏は、手のひらを返したように女子から遊びに誘われるようになり、俺と昼休みを過ごす事はなくなった。
そして、俺は心に決めたんだ。
誰に聞かれても、奏が好きな事は、言わないでおこうと。