優しい音を奏でて…優音side
2月14日バレンタインデーは、奏の誕生日だ。
俺は、小学生の頃から、奏のチョコと引き換えにプレゼントを渡して来た。
音楽好きの奏に、音楽関連の物をプレゼントする為に、恥ずかしいのを我慢して女子でいっぱいの雑貨屋に入り、シールやメモ、鉛筆などの文具や雑貨を毎年お小遣いで買っていた。
今年は、音符柄のシュシュ。
中央には、ゴールドのト音記号と16分音符のチャームが揺れる。
髪の長い奏にピッタリだと思う。
だけど、学校に持っていったものの、結局渡せなかった。
家まで自転車で行こうか?
迷っていると、玄関のチャイムが鳴った。
「優音〜。お友達よ〜。」
奏!?
じゃないな、きっと。
奏なら、母さんは名前で呼ぶはず。
玄関に行ってみると、河合が立っていた。
「田崎くん、これ、もらって。」
そう言って、紙袋を差し出した。
俺は、
「ごめん。
その気もないのに受け取れない。」
と断った。
河合は少し目をウルウルさせていたようだったが、
「分かった。またね。」
とチョコを持って帰っていった。
ふぅぅぅっっ
ひとつため息をつくと、俺は決めた。
奏に会いに行こう!
「母さん、ちょっと出てくる。」
そう言って、自転車で奏の家に向かった。
ピンポーン ♪
玄関のチャイムを押すと、おばさんがにこにこしながら出てきた。
「あら、ゆうくん、いらっしゃい。
奏〜、ゆうくんよ〜。」
奏は、エプロン姿で出てきた。
花柄のエプロン…
めっちゃ、かわいい。
俺の心臓が、またバクバクと大きな音を立て始めた。
俺は、一生懸命、普通を装って、プレゼントの入った紙袋を差し出した。
「奏、誕生日おめでとう!」
「ありがとう。」
奏が、はにかんだように笑った。
もう、かわいくて仕方がない。
「じゃ。」
と俺が帰ろうとすると、
「ちょっと待って。」
と奏が呼び止めた。
「ゆうくん、ちょっと待ってて。」
そう言って、奥へ入って行くと、今度は奏が紙袋を持ってきた。
「これ。バレンタインだから。」
「ありがとう。」
義理だろうと何だろうと、奏からのチョコだ。
俺が今日、1番欲しかったチョコを平静を装って受け取ると、天にも登る気持ちで家路に着いた。
中学1年の3月、俺は、長年続けたバイオリンをやめた。
元々、不純な動機で続けてきたバイオリンだったが、奏とは部活で毎日会える事もあり、両親から塾を週5日に増やされたのを機にやめる事にしたのだ。