優しい音を奏でて…優音side

「田崎くん!」

河合が手を振る。

「コーヒーを。」

席に着いた俺は、店員に言った。

「で、何?」

俺はいきなり本題を切り出した。

「田崎くんの好きな人って、奏だよね?」

俺は答えなかった。

言わない事が、小学校以来の俺のルールだったから。

「奏、好きな人がいるんだって。
田崎くんじゃなくて。」

何で、お前にそんな事、言われなきゃいけないんだ?

「何で河合がそんな事知ってるんだ?」

口から出たのは、思ってる事と微妙に違う質問。

俺の顔は、引きつっていたに違いない。

「お正月に初詣に行ったじゃない?
あの時、安藤くんがこっそり告白してるのを
聞いちゃったの。
そしたら、奏、好きな人がいるって言って、
断ってた。
だから、気になって、奏に聞いたの。
『奏の好きな人って、田崎くん?』って。
そしたら、『大丈夫、違うよ〜』って
笑ってた。」

俺は、ショックで何も言えなかった。

奏が、俺に友情しか感じてないのは、知ってた。

だけど、他の奴に恋してるのは、初めて知ったから。


河合は、紙袋を出した。

「田崎くん、言わなくても分かってると
思うけど、ずっと好きでした。
私と付き合ってください。」

返事ができないでいる俺に更に畳み掛けるように言った。

「とりあえず、お試しでも気晴らしでも
いいから、付き合って。
ダメなら、すぐに別れればいいから。」

気が動転していた俺は、思わず、俯いていた。

気づくと、目の前に満面の笑みをたたえた河合の顔があった。

しまった!
頷いて肯定した事になってる!


「ありがとう。
ほんとにありがとう。」

嬉しそうな河合を見て、うっかり俯いただけだとは、言えなかった。

「また、連絡するね。
忙しいのに会ってくれて、ありがとう。」

そう言って、河合は帰っていった。


どうしよう!?

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