優しい音を奏でて…優音side
社会人
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社会人

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就職してしばらくは、忙しくて余計な事を考える暇もなかった。

父が重役を務める銀行で、親の七光りと言われないために、必死で働いた。



─── 23歳 春 ───

俺が休みの日にリビングでのんびりテレビを見ていると、奏のお母さんが遊びに来た。

母とまったりお茶を飲みながら、世間話をしている。

すると、話題が、奏の事になった。

「葵ちゃん、実はね、奏、東京に彼氏が
いるみたいなの。」

はっ!?
奏に彼氏!?

「えぇ!? 何で?
奏ちゃんはうちにお嫁に来て欲しかった
のに〜」

「詳しく聞いてないんだけど、同じ会社の
人で、同期の人なんだって。
私、漠然と、奏はいつか帰ってきて、こっちで
結婚すると思ってたから、ショックでね〜」

もう全てがどうでもよかった。
俺の中でイライラが募って、溢れ出しそうだった。

我慢できずに、俺は、

バタン!

と大きな音を立てて、リビングのドアを閉めると、財布と鍵だけ持って、外に飛び出した。

怒りに任せて、車を走らせ、気づくと東京まであとちょっとという所まで来ていた。

東京に行ったところで、奏に会えるわけでもなく、奏の彼氏との間をどうこうできるわけでもない。


俺は、そこから引き返して、家に戻った。

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