くまさんとうさぎさんの秘密
by 熊谷 義明
優矢君は、粋な日本男子だった。浴衣も、着なれたもんだし、トイレも慣れたもんだった。
「優那は、俺のこと、いつまでも保育園か何かと勘違いしてるんだ。」と、優矢君は言った。
「そっか。でもまあ、公園とかトイレは危ないしな。大人でも、1人で行かない方が良いんじゃないか?俺は、警備会社の仕事してるんだ。バイトみたいなもんだけど。だから、頼まれたんだと思うよ。」俺は、ちょっと大袈裟に言った。まあ、仕事と言っても、技術職ですが。。
「お兄さんは、強いのか。」と、優矢君は、言った。
「まあね。」と、俺は言った。
その時、今度は、俺が声をかけられた。
「熊ちゃんじゃん。。」
あらら、あのバカップルだ。
「今晩は」と、俺は、二人に会釈する。
時田さんは、ちょっと照れて、
「義明くん、今年の夏は、スケジュールが変わっちゃって申し訳なかったね。」と、言った。
中野先生は、俺の手をとった。
「ホント、熊ちゃんのおかげだよ。めちゃめちゃ幸せだよ。」相変わらずの勢いだ。
この人、本当に先生の自覚があるんだろうか。
今日の彼女は、心持ちおとなしめの服装だった。時田さんの影響なのかもしれない。
「もうちょっと、人目を気にしてください。ホント、大学関係者に見られたらどうすんですか?」
と言うか、時田さん、何で彼女を野放しにするんだ??
「ごめん」と、中野先生は、手を引っ込めた。ちょっとらしくない反応な気もした。
とはいえ、時田さんが、この彼女のアケスケさを野放しにする度量の持ち主だから良いのかもしれない。
「そう言えば、明日連絡をとろうと思ってたんだ。正式に予算がおりることになったよ。」と、時田さんは言った。
大ニュースだ。
詳しい事は、明日電話するという話になった。
2人が立ち去った後、優矢君が俺の袖をしっかりと握ったまま言った。
「お兄さん、いつになったら優那と結婚すんだ?」
優矢君は、心細そうにしていた。。
中野先生が俺の手をとった時よりも、周りの人が振り返ったような気がした。
何で今、こういう話になったんだろう?優矢君は、誰かに何か言われたんだろうか??何があったのか振り替える。
唐突に思えたけれど、優矢君の中で何かあったんだ。
俺は、相手が子どもだからいい加減な説明をするのは嫌だった。大人の事情とやらの方が、よっぽど場当たり的でいい加減ということが多々ある。
でも、宇佐美と俺とのことについては、胸を張って答えられる事が何もなかった。
実際、俺は、場当たり的な大人で、、ちゃんとした約束もないのに、彼女を連れて帰って、家に引き留めたままにしていた。
優矢君は、不服そうな顔のまま言った。
「優那に会いたいって言ったら、お父さんが、がまんしろって。ちゃんとしたら、そのうち、いつでも遊びに行けるようになる、がまんしろって。」と、優矢君は言った。。
今一話が見えない部分もあるが、言葉を選ばないと、更に優矢君を傷つける気がした。
「お父さんにそれ言われたの、いつくらいの話?」と、俺は探りを入れた。
「去年。優那がくまさんちに引っ越したとき。それまでは下宿に行けば会えたけど、お兄さんちに引っ越してからは、会えなくなった。」
そんな不便をさせていたとは。。
優矢君とは、宇佐美のバイト先の保育園で、ちょこちょこ会ったことがある。優矢君は、俺のことを、呼びにくそうに「お兄さん」と呼んだり、周りの人に合わせて「くまさん」と呼んだりしていた。
俺は、膝を折り、優矢君に目線を合わせた。
「宇佐美の、優那さんの家族は俺の家族だから、熊谷家には、いつでも遊びに来て良いよ。」と、俺は言った。
優矢君は、訝しげな目でこちらを見た。。
「俺たち、騙されてる気がする。」
「騙されてる??お姉さんに損させるようなことはしてないし、これからもしないよ」
「「優那は、婚約者の熊谷さん家で花嫁修業してるんだ」って聞いた。でも、全然結婚しないし、優那に会えない。」
ちょっとまて。
ひとみが足止めしなきゃ、宇佐美はとっくに熊谷家から出ていただろう。うちのことは、下宿くらいにしか考えてないんじゃないかな。。
優矢君が嘘をついているようにも見えないけれど、誰のところで話が噛み合わなくなってしまったのか?。。それとも、宇佐美は、家族に、そういう説明をしたのか??
大学進学の頃、宇佐美は、「安くて助かる」と、嬉々として、入寮の手続きをしていた。少なくとも、俺の前では。
もしかして、ものすごく裏表あったりする??
ぐるぐるとばつの悪い思いと、噛み合わない話の気持ち悪さみたいなもんと、ちょっとした男子のイケナイ期待が胸の中で交じりあった。
落ち着こう。
俺は、彼女の家族と話している。
きっと、もっと、話はシンプルなんじゃないんだろうか。
俺は、優矢君の顔を見た。
「俺は、君のお姉さんが好きだ。でも、それだけだ。お姉さんが困ってたから、家に連れて帰った。」
優矢君は、首をかしげた。この子は、目元が宇佐美に本当に似ている。
「俺は、23才までにお姉さん口説き落とそうと思ってる。君とも兄弟になりたい。」と、俺は言った。
「分かった。23で結婚すんだな?」と、優矢君は確認した。
「結婚の話は、実は、まだなにも出てない。」こじらせたいわけではないので、緊張した。余計な疑いを持たれたい訳ではない。
「花嫁修業って、宇佐美が、優那さんが言ってたの?」
優矢君は、首をかしげた。
「お父さんが、家でみんなに言ってた。」と、優矢君は答えた。
宇佐美の家族については、、お父さん以外の家族は、うちに何の連絡もないし、何か変だとは思ってた。澤谷と別れてすぐだし、本気で放任なのかと思ったけど、どうもそうではないらしい。あちらはあちらでいろいろとあったのかと思うと、ものすごいプレッシャーだ。
「お母さんが怒っていて、優那が約束守らないなら縁切るって。そしたら、お父さんが、「俺は俺の娘の都合を考える」って。それで、優那は熊谷さんところにやるって言ってた。」
どうやら、宇佐美のお父さんが、家族みんなを黙らせてしまっていたようだ。
俺と話をしているとき、宇佐美のお父さんは、そんな内情はおくびにも出さなかった。俺は、彼に信頼されてるとでも思えば良いんだろうか。。
優矢君は、粋な日本男子だった。浴衣も、着なれたもんだし、トイレも慣れたもんだった。
「優那は、俺のこと、いつまでも保育園か何かと勘違いしてるんだ。」と、優矢君は言った。
「そっか。でもまあ、公園とかトイレは危ないしな。大人でも、1人で行かない方が良いんじゃないか?俺は、警備会社の仕事してるんだ。バイトみたいなもんだけど。だから、頼まれたんだと思うよ。」俺は、ちょっと大袈裟に言った。まあ、仕事と言っても、技術職ですが。。
「お兄さんは、強いのか。」と、優矢君は、言った。
「まあね。」と、俺は言った。
その時、今度は、俺が声をかけられた。
「熊ちゃんじゃん。。」
あらら、あのバカップルだ。
「今晩は」と、俺は、二人に会釈する。
時田さんは、ちょっと照れて、
「義明くん、今年の夏は、スケジュールが変わっちゃって申し訳なかったね。」と、言った。
中野先生は、俺の手をとった。
「ホント、熊ちゃんのおかげだよ。めちゃめちゃ幸せだよ。」相変わらずの勢いだ。
この人、本当に先生の自覚があるんだろうか。
今日の彼女は、心持ちおとなしめの服装だった。時田さんの影響なのかもしれない。
「もうちょっと、人目を気にしてください。ホント、大学関係者に見られたらどうすんですか?」
と言うか、時田さん、何で彼女を野放しにするんだ??
「ごめん」と、中野先生は、手を引っ込めた。ちょっとらしくない反応な気もした。
とはいえ、時田さんが、この彼女のアケスケさを野放しにする度量の持ち主だから良いのかもしれない。
「そう言えば、明日連絡をとろうと思ってたんだ。正式に予算がおりることになったよ。」と、時田さんは言った。
大ニュースだ。
詳しい事は、明日電話するという話になった。
2人が立ち去った後、優矢君が俺の袖をしっかりと握ったまま言った。
「お兄さん、いつになったら優那と結婚すんだ?」
優矢君は、心細そうにしていた。。
中野先生が俺の手をとった時よりも、周りの人が振り返ったような気がした。
何で今、こういう話になったんだろう?優矢君は、誰かに何か言われたんだろうか??何があったのか振り替える。
唐突に思えたけれど、優矢君の中で何かあったんだ。
俺は、相手が子どもだからいい加減な説明をするのは嫌だった。大人の事情とやらの方が、よっぽど場当たり的でいい加減ということが多々ある。
でも、宇佐美と俺とのことについては、胸を張って答えられる事が何もなかった。
実際、俺は、場当たり的な大人で、、ちゃんとした約束もないのに、彼女を連れて帰って、家に引き留めたままにしていた。
優矢君は、不服そうな顔のまま言った。
「優那に会いたいって言ったら、お父さんが、がまんしろって。ちゃんとしたら、そのうち、いつでも遊びに行けるようになる、がまんしろって。」と、優矢君は言った。。
今一話が見えない部分もあるが、言葉を選ばないと、更に優矢君を傷つける気がした。
「お父さんにそれ言われたの、いつくらいの話?」と、俺は探りを入れた。
「去年。優那がくまさんちに引っ越したとき。それまでは下宿に行けば会えたけど、お兄さんちに引っ越してからは、会えなくなった。」
そんな不便をさせていたとは。。
優矢君とは、宇佐美のバイト先の保育園で、ちょこちょこ会ったことがある。優矢君は、俺のことを、呼びにくそうに「お兄さん」と呼んだり、周りの人に合わせて「くまさん」と呼んだりしていた。
俺は、膝を折り、優矢君に目線を合わせた。
「宇佐美の、優那さんの家族は俺の家族だから、熊谷家には、いつでも遊びに来て良いよ。」と、俺は言った。
優矢君は、訝しげな目でこちらを見た。。
「俺たち、騙されてる気がする。」
「騙されてる??お姉さんに損させるようなことはしてないし、これからもしないよ」
「「優那は、婚約者の熊谷さん家で花嫁修業してるんだ」って聞いた。でも、全然結婚しないし、優那に会えない。」
ちょっとまて。
ひとみが足止めしなきゃ、宇佐美はとっくに熊谷家から出ていただろう。うちのことは、下宿くらいにしか考えてないんじゃないかな。。
優矢君が嘘をついているようにも見えないけれど、誰のところで話が噛み合わなくなってしまったのか?。。それとも、宇佐美は、家族に、そういう説明をしたのか??
大学進学の頃、宇佐美は、「安くて助かる」と、嬉々として、入寮の手続きをしていた。少なくとも、俺の前では。
もしかして、ものすごく裏表あったりする??
ぐるぐるとばつの悪い思いと、噛み合わない話の気持ち悪さみたいなもんと、ちょっとした男子のイケナイ期待が胸の中で交じりあった。
落ち着こう。
俺は、彼女の家族と話している。
きっと、もっと、話はシンプルなんじゃないんだろうか。
俺は、優矢君の顔を見た。
「俺は、君のお姉さんが好きだ。でも、それだけだ。お姉さんが困ってたから、家に連れて帰った。」
優矢君は、首をかしげた。この子は、目元が宇佐美に本当に似ている。
「俺は、23才までにお姉さん口説き落とそうと思ってる。君とも兄弟になりたい。」と、俺は言った。
「分かった。23で結婚すんだな?」と、優矢君は確認した。
「結婚の話は、実は、まだなにも出てない。」こじらせたいわけではないので、緊張した。余計な疑いを持たれたい訳ではない。
「花嫁修業って、宇佐美が、優那さんが言ってたの?」
優矢君は、首をかしげた。
「お父さんが、家でみんなに言ってた。」と、優矢君は答えた。
宇佐美の家族については、、お父さん以外の家族は、うちに何の連絡もないし、何か変だとは思ってた。澤谷と別れてすぐだし、本気で放任なのかと思ったけど、どうもそうではないらしい。あちらはあちらでいろいろとあったのかと思うと、ものすごいプレッシャーだ。
「お母さんが怒っていて、優那が約束守らないなら縁切るって。そしたら、お父さんが、「俺は俺の娘の都合を考える」って。それで、優那は熊谷さんところにやるって言ってた。」
どうやら、宇佐美のお父さんが、家族みんなを黙らせてしまっていたようだ。
俺と話をしているとき、宇佐美のお父さんは、そんな内情はおくびにも出さなかった。俺は、彼に信頼されてるとでも思えば良いんだろうか。。