くまさんとうさぎさんの秘密
by 熊谷 義明

盆踊りの次の朝、俺は、不覚にも、数年ぶりに熱を出して寝込んでしまった。多分、普段使わない種類の脳ミソをフル回転させてしまったからだと思う。

昨夜は、散々だった。
好きな女の気持ちは分からない。自分の気持ちも、当たり前だが伝わっていない。彼女の周りには不愉快な男がチョロチョロしてるし、彼女の家族からは約束もないのに責任をとれと迫られた。

あげくのはてにだ。踊り疲れた宇佐美を、バス停からかついで帰ることになった。自動ドアになっていて良かった。
俺は、「緊急事態」と、音声認証に話しかけ、宇佐美の部屋に彼女を担ぎ込むはめになった。

彼女は、朝早くに出かけたので、俺は1人で部屋にいる。今日は、1人になりたかった。

ベッドに寝転がったまま、宇佐美さんのくれたメモリーカードをデバイスに入れる。

中身は、親父の講義風景だった。といっても、親父だけが再生されている。立体だが、古い動画だ。
親父は、俺の記憶の中の親父よりも若かった。多分、30前後の頃なんじゃないかな。親父には、一生かなわないと思ってたけど、つくづく、若くで亡くなったんだなあと思う。

親父の講義は、とてもよくまとまっていた。一つ目は、立体動画のデータ解析について。多分、大学生向けの講義だ。それから、二つ目は、自分の仕事を紹介する講義。後者は多分、中高生向けだ。

不思議な感じだ。死んだはずの親父が、やけに生き生きと笑っている。目をつぶると、本当にそこにいるような気配さえする。

そして、このメモリーカードには、おまけがついていた。俺が、目をつぶり、うとうとと親父の講義を最後まで聞いた後、突然、関係ない動画が再生され始めた。
親父が、かがんで、見えない誰かの体に触れる。。
「宇佐美、面白すぎだろ。すっかり騙された。でもまあ、騙されて良かった。本当に良かった。」

それは、突然で、突然始まり、突然終わった。
その後、、空に、今度は2次元の画像が浮かび上がった。文字がずらずらと流れ出す。。
何だこれは??

俺は、目が覚めた。どうやら、、親父の名前が入っている。親父の論文か?。発表されているものだろうか?それとも、未発表のものだろうか??

始め、それは親父の論文かと思ったが、違った。
それは、親父の追悼文集だった。
英語で書かれたものもあれば、フランス語で書かれたものもあった。日本語で書かれたものもあった。

盆踊りの輪に入り込むと、毎年、親父とすれ違いそうな気がする。
そして、それは多分、気のせいじゃない。







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