くまさんとうさぎさんの秘密

屋敷の中のうさぎ

by 宇佐美 優那
くまさんの家の中は、家電メーカーのモデルルームみたいだった。
よくよく気を付けてみると、廊下の天井に防犯カメラがついていた。

くまさんは、玄関のオートロックも、スマホから操作していた。
特殊なオーブンがあって、温度が0度から300度まで変えられるそうだ。
肉詰め料理が冷凍で保存しておいて、時間になったらポテトと焼けてるんだそうだ。
床にはロボット掃除機が置いてあるが、よく見かけるサイズより一回り小さかった。

晩御飯は、えらく美味しかった。
「これ、くまさんが作ったの??」
「晩御飯は俺が担当。ひとみ、夜も仕事だから。」
くまさんも、洋治も、あゆみも、誰もご飯を食べなかった。
くまさんはひとみさんを待つらしいし、二人は家族とご飯食べるから、食べないそうだ。
他の人のことを考えてる余裕はなかった。お腹がすいてた。
「私は、今もらうね。いただきます。」
私は、今が人生の分かれ目かもしれない。
実は、今日、あのあとバイトを決めてきた。
優矢の通ってた保育園で、おもちゃ作成および修繕、掃除雑用のパートを探していたのだ。
親から少しの仕送りがあったし、授業料も払ってもらっていた。
でも、文章を書く仕事の収入をあてにしないとやっていけなかった。
元々行き詰まってもいたし、いろんな意味で、全く違ったことをしてみるのは、
良いことに思えた。
くまさんが、私が一人でご飯食べるさまをあきれ見ていた。
「男と女じゃ違うのかもしれないけどさ。口に入れるもんは選んだ方がいいって。
ひとみがいっつも言ってる。ごはんぬくとかありえないだろ。」
「昨日の今日じゃ、朝ご飯とか遠慮するでしょ。」
「遠慮しなくていいよ。俺、お前が飯食ってるとこ見るの好きだし。」
「。。。。」私は、ちょっと赤くなった。
「お金は貸せないけど、食べ物はみんなで分けなさいってひとみがいっつもいってる。」
「くまさんって、マザコンだよね。」
「ちょっと違うかな??親子だし、考え方が似てるのは間違いないけど。
ひとみも、俺も、何かに束縛されるの嫌いなんだよ。
ひとみが言ってるのは、自由の法則。好きにしたいなら、これが条件よみたいな。
実際、社会に出たって、誰からも自立してなきゃ自由なんかないじゃん。」
「自覚ないところが怖いね」と、私は言った。
さっきの、幽霊のようなひとみさんの姿を思い出した。
多分何年か前のものだと思う。あの人はあの人で、それなりに年取ってるんだ。
「さっきのあれ何??」
「あれ、3Dポリゴンから起こした立体アニメ。」
「アニメ?リアルじゃなく???撮影されてたのかと思ったよ。」
「あれ、おもちゃだよ。自分の姿を立体で撮影して、それに決まった動き方をさせる動画を作れる機械。ホラーハウスでお客さん撮影して、鏡の中の自分が、違う動きをする機械売るんだ。」
「それ、本気で怖いわ。何か悪用されそうで怖い。。」
「汎用性がない機械にする。俺も、悪用されるのは嫌なんだ。それしかできないように作るし、書き換えられないように作る。」
「最終的にどうなるの?」
「絶対に誰にも言うなよ。妖怪のキャラがあるんだよ。何だっけあの、、ステッキふるやつと、帽子深くかぶるやつと、くつのかかとならすやつ。」
「分かった。。ミラファイターとピカリンと、何かだ。。」
「撮影されたお客さんの姿でアイテム持ってポーズとるんだ。希望者には、動画の購入も可能で、希望しない場合は、 その日のうちに削除される。もって帰ってもらうものをどうするかで、ちょっと実現できるか保留になってる。悪用云々も、よくよく考えなきゃだしね。」
「私には、あれがおもちゃには見えなかったよ。あの日の私そのものじゃん。。」
「あの店に、防犯カメラあるの知ってた??」
「あってもおかしくないとは思うけど、やっぱ、あれ、うつされてたわけ??」
「あの席にカメラはまわってないよ。あれの元画像は、店の入り口あたりのカメラ。」
「こわっ」
「言うと思った。」
「お前困ってそうだったし嫌がってそうだったし、あいつ悪い奴だと思ってたし。。昨日の夜までは、俺も頭に血が上ってたんだよ。再現してやったら何かに使えるかと思って始めたんだけど、、
何か気がついたら違うことになってた。。」
「それに、お前に怖いとか言われたくないわ。おまえも、相当じゃん。
あの靴も服も、あいつに買わせたんだろ。相当じゃんか。
俺、昔、女の子がスマホのPW忘れたっていうから、PCにつないでPW調べてあけたげたことがあったんだよ。そん時も、「怖っ」って言われた。めちゃめちゃ喧嘩別れだよ。誰かに誤解されるのはキツイよな。開けれるけど、見ないよ。俺は。見ても言わないし。人と人の間には、必要な距離があるって、ちゃんと分ってる。人に何か押し付けられるの嫌いだから、俺も押し付けんのは嫌いなんだよ。」
「分かったよ。ごめん。でも、あれはここだけの秘密にして。私が消してって言ったら、消すことが約束。それから、誰にも見せないで。」
「気持ち悪いとか言うなよ。すぐに消すから。」
「消さないでっ。まだ消さないで。」っと、私はくまさんの手を引っ張った。
「あれ、私にとっても、忘れられない場面だったんだよ。ちょっと問題ある気もするけど、ちゃんと考えたい。くまさんが、そういうの悪用する人じゃないって、ここ何日かで分かってる。ずっと苦しかったから、あの瞬間は、少なくとも、私のこと助けようと思ってしてくれたこと、すごくわかってる。」
「私だって、悪女みたいに言われたくないよ。私、そんなんじゃないもの。絶対に。あの人ね、一緒にいると、私のせいにするの。絶対勝てないの。嫌で嫌でたまらなかった。靴も服も、買ってくれなんて一言も言ってないよ。断っても断っても、聞いてないんだよ。私の悪いところばかり見つけていくの。」

「あの人のこと考えると、いつもみじめな気持ちになるの。私が、一番人に認めてほしいとこ、人のいい顔でぶち壊していくの。いつも。いつも。」

「何か、すごい気を使う人なのは分かるよ。俺も苦手なタイプだけどさ。こっちだって、子どもだからじゃすまされないだろ。」

「ひとみが帰るまでにテスト勉強終わらせるぞ」と、くまさんが言った。
誰かと勉強するのなんて、久しぶりだが、正直余裕がない。
本気で結果が求められているときには、一人にしてもらえた方が助かる。
(ホント、必死だよ。。)私には後がない。明日から、夕方はバイトに行かなければならない。


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