くまさんとうさぎさんの秘密
妖精と約束と
by 熊谷 ひとみ
何か、適度に運動した方が良いとかで、退院することになった。
実は、義明に、左手の麻痺の話をできていない。
リフォームのことで、
「無理させちゃったかもしれない」と話していたから、「気にしなくて良いよ」とか、「赤ちゃんは元気だって」とか、そんな事しか言えなかった。
それにひきかえ、篤ちゃんには、ずいぶんめちゃくちゃ言った。
もう、篤ちゃんが強姦したくらいの勢いでやつあたってしまったりもした。後で反省したりもしたけれど、逃げないでいてくれる篤ちゃん相手に、居直った態度で申し訳なかった。
彼は、多分、赤ちゃんが欲しかっただけだ。
私が若かったら、できちゃっただろうが何だろうが、丸く収まる話かと思うと、悔しかった。
でも、それと同時に、自分の気持ちが、完全に熊谷から、篤ちゃんに移っていることに気がついた。
亡くなった人の顔が思い出せない。
義明は熊谷に生き写しだとみんな言うけど、義明は義明だ。熊谷には感謝している。義明のお父さんだし、亡くなる前に、ちゃんと私のことをふってくれた。だから、彼は彼で、私の中で、ちゃんと仏様になっている。
篤ちゃんなら、「自分はもう無理だから他に行け」なんて言わない。
退院の日の前日、篤ちゃんは、いつものようにお行儀良く、ドアをノックをして部屋に入ってきた。
「おはよう。」
「おはよう。」
いつもは、無視するけど、今日はちゃんと返事する。
篤ちゃんは、私の返事に戸惑う。
「篤ちゃん、ナシとモツァレラ食べたい。今日の夕方持ってきて。」
「了解。。」篤ちゃんは、こちらの様子を伺っている。
「ひとみ、ひとみさんまだ怒ってる??こないだは悪かったよ。」
「怒ってない。私も今まで悪いところだらけだったし。でも、覚悟は決まったから。」
篤ちゃんと、まっすぐ見つめあっている。
「菊のお茶入れて。」
「了解。持ってきてるよ。」
彼は、すぐにお茶をいれてくれた。
いつも、彼がいれると、うっとりするくらい美味しい。
「美味しい。。」花の香りの湯気がたつ。
篤ちゃんは、私がゆっくりとお茶を飲むのを見ていた。
全身に菊の風味が広がる。
「あのね。明日から、篤ちゃんとこに帰ることにする。」と、私は言った。
篤ちゃんは、呆けた顔をした。
「塩気は控えたいの。元々苦手だし。制限した食事にしてほしい。」
篤ちゃんは、破顔した。私は、強く、強く抱き締められた。
「OK」
けれども、すぐに腕をほどかれる。
「でも、、ひとみさん、何で??」
「嫌なわけ??文句でも??」
「嫌、、違うよ。嫌なわけない。」
篤ちゃんは慌てる。
「義明には、左手のこと、まだ話してないの。それに、、今、義明が彼女と一緒に家にいるのよ。長男は、手が離れたわけだから、お腹の子のこと考えたい。」
彼は、探りを入れるようにこちらを見た。
「それは、俺に残りの人生預けてくれると思って良いの??」
「ローストビーフと、ラズベリーソース食べたい。甘すぎないやつ。子牛の肉と、かきのソース食べたい。」
「ひとみが好きなもんは、何でも用意するよ。」
「義明と一緒にいたら、メープルシロップ食べれないのよ。」
篤ちゃんは、ため息をつく。
あと、、
「それから、お父さんに謝って。」と、私は言った。
「それは無理。」篤ちゃんは、ツンと横を向く。
「娘のパパになりたかったら謝って。」
しばし沈黙。。
「お父さんが孫を抱いてくれないと、私達、産後はデートもできなくなるんだよ。あの人、良いおじいちゃんになりそうだと思わない??」
私は、篤ちゃんの顔をまっすぐ見る。
篤ちゃんは、目をそらした。
「あの人とか言わないで。今後、一生、ひとみがあの人のこと「お義父さん」って呼んでくれるなら、、、謝るよ。」
「交換条件とか、おかしいよ。娘は、パパにもじいじにも愛されて育てたいの。娘のために、下らない喧嘩はやめて。悪いけど、そこで先に折れることができるのが、大人だと思ってるから。」
篤ちゃんは、もう一度、私の頭を抱いた。
「何でもいいや。じじいの機嫌とれば、ひとみさんが手にはいるなら謝るよ。」
「私は、お父さんに、孫を抱いてやってくれって頼んでほしいだけよ。」
「分かったよ。」
「カリフォルニアロールも用意するよ。」
「生魚は避けてるから、それはやめて。かきも、しっかり火をとおして。」
「了解」
色々と要求を並べる。相手は、うるさい客ほど燃えちゃうオモテナシのプロだ。
しおらしい気持ちになる。
「篤ちゃん。一生大事にしてね。」下からのぞきこんだら、腫れ物でも触るような、優しいキスが降ってきた。
何か、適度に運動した方が良いとかで、退院することになった。
実は、義明に、左手の麻痺の話をできていない。
リフォームのことで、
「無理させちゃったかもしれない」と話していたから、「気にしなくて良いよ」とか、「赤ちゃんは元気だって」とか、そんな事しか言えなかった。
それにひきかえ、篤ちゃんには、ずいぶんめちゃくちゃ言った。
もう、篤ちゃんが強姦したくらいの勢いでやつあたってしまったりもした。後で反省したりもしたけれど、逃げないでいてくれる篤ちゃん相手に、居直った態度で申し訳なかった。
彼は、多分、赤ちゃんが欲しかっただけだ。
私が若かったら、できちゃっただろうが何だろうが、丸く収まる話かと思うと、悔しかった。
でも、それと同時に、自分の気持ちが、完全に熊谷から、篤ちゃんに移っていることに気がついた。
亡くなった人の顔が思い出せない。
義明は熊谷に生き写しだとみんな言うけど、義明は義明だ。熊谷には感謝している。義明のお父さんだし、亡くなる前に、ちゃんと私のことをふってくれた。だから、彼は彼で、私の中で、ちゃんと仏様になっている。
篤ちゃんなら、「自分はもう無理だから他に行け」なんて言わない。
退院の日の前日、篤ちゃんは、いつものようにお行儀良く、ドアをノックをして部屋に入ってきた。
「おはよう。」
「おはよう。」
いつもは、無視するけど、今日はちゃんと返事する。
篤ちゃんは、私の返事に戸惑う。
「篤ちゃん、ナシとモツァレラ食べたい。今日の夕方持ってきて。」
「了解。。」篤ちゃんは、こちらの様子を伺っている。
「ひとみ、ひとみさんまだ怒ってる??こないだは悪かったよ。」
「怒ってない。私も今まで悪いところだらけだったし。でも、覚悟は決まったから。」
篤ちゃんと、まっすぐ見つめあっている。
「菊のお茶入れて。」
「了解。持ってきてるよ。」
彼は、すぐにお茶をいれてくれた。
いつも、彼がいれると、うっとりするくらい美味しい。
「美味しい。。」花の香りの湯気がたつ。
篤ちゃんは、私がゆっくりとお茶を飲むのを見ていた。
全身に菊の風味が広がる。
「あのね。明日から、篤ちゃんとこに帰ることにする。」と、私は言った。
篤ちゃんは、呆けた顔をした。
「塩気は控えたいの。元々苦手だし。制限した食事にしてほしい。」
篤ちゃんは、破顔した。私は、強く、強く抱き締められた。
「OK」
けれども、すぐに腕をほどかれる。
「でも、、ひとみさん、何で??」
「嫌なわけ??文句でも??」
「嫌、、違うよ。嫌なわけない。」
篤ちゃんは慌てる。
「義明には、左手のこと、まだ話してないの。それに、、今、義明が彼女と一緒に家にいるのよ。長男は、手が離れたわけだから、お腹の子のこと考えたい。」
彼は、探りを入れるようにこちらを見た。
「それは、俺に残りの人生預けてくれると思って良いの??」
「ローストビーフと、ラズベリーソース食べたい。甘すぎないやつ。子牛の肉と、かきのソース食べたい。」
「ひとみが好きなもんは、何でも用意するよ。」
「義明と一緒にいたら、メープルシロップ食べれないのよ。」
篤ちゃんは、ため息をつく。
あと、、
「それから、お父さんに謝って。」と、私は言った。
「それは無理。」篤ちゃんは、ツンと横を向く。
「娘のパパになりたかったら謝って。」
しばし沈黙。。
「お父さんが孫を抱いてくれないと、私達、産後はデートもできなくなるんだよ。あの人、良いおじいちゃんになりそうだと思わない??」
私は、篤ちゃんの顔をまっすぐ見る。
篤ちゃんは、目をそらした。
「あの人とか言わないで。今後、一生、ひとみがあの人のこと「お義父さん」って呼んでくれるなら、、、謝るよ。」
「交換条件とか、おかしいよ。娘は、パパにもじいじにも愛されて育てたいの。娘のために、下らない喧嘩はやめて。悪いけど、そこで先に折れることができるのが、大人だと思ってるから。」
篤ちゃんは、もう一度、私の頭を抱いた。
「何でもいいや。じじいの機嫌とれば、ひとみさんが手にはいるなら謝るよ。」
「私は、お父さんに、孫を抱いてやってくれって頼んでほしいだけよ。」
「分かったよ。」
「カリフォルニアロールも用意するよ。」
「生魚は避けてるから、それはやめて。かきも、しっかり火をとおして。」
「了解」
色々と要求を並べる。相手は、うるさい客ほど燃えちゃうオモテナシのプロだ。
しおらしい気持ちになる。
「篤ちゃん。一生大事にしてね。」下からのぞきこんだら、腫れ物でも触るような、優しいキスが降ってきた。