くまさんとうさぎさんの秘密

サヨナラの始まり

高校3年というと、勉強とか、学校とか、恋とか、クラブとか、先輩と後輩とか、いろんなキーワードが浮かぶかもしれない。
でも、私にとっての高校3年生は、時間ぎりぎりに慌てて飛び出す教室と、保育園のちびっこたちと、帰り道で一緒になるくまさん。

それだけ。

周りは、多分、私は何も楽しみを持っていない人と思ったかもしれない。
でも、私にとっては、とても充実した一年で、私は何一つそれ以上のことも望んでいなかった。

卒業式の日も、私は、早めに帰宅して、ろくにいろんな人に挨拶もしなかった。

でも、、保育園に着くと、優矢と、園長先生と、職員のみんなが私を待っていた。
「卒業おめでとう」と、みんなが私に言ってくれたが、卒業した実感はなかったし、
その日のバイトもいつも通りだった。

くまさんと帰る帰り道も、これが最後だ。
くまさんは、私たちのお父さんたちの後輩になることが決まっていた。
実は、医学部や人間科学部のキャンパスからは近いのだけど、
くまさんが通う理工学部は、家から通うにはちょっと中途半端な距離のため、
くまさんは下宿することになっていた。
私も、四月から寮に入ることが決まっていた。無事に志望校に合格できたのだ。
私の実家から大学まで、バスで20分ほどで、何で寮に入らなければならないのか、
ちょっと不満もあったのだが、家に帰りたいという思いも、以前よりは希薄になっていた。
バイトは、来年度もこのまま続けられることになって、ラッキーだった。

この道を、くまさんと同じ家に帰るのは、これが最後だ。

「ホント、いろいろありがとうね。」と、私は言った。
こんなに他人に迷惑かけまくったことなんてないんじゃないかと思う。

学校休んだ、あの中学校の時でさえ、他人に何か助けを求める勇気なんかなくて、
逃げまくってた。

「宇佐美、頑張り屋じゃん。正直、ちょっとあきれた時もあったけど、一生懸命な人間って、俺、嫌いじゃないよ。」と、くまさんは言った。

おっと、。苦手から、嫌いじゃないに昇格だ。(笑)

くまさんのおかげで、本当に花のある一年だった。

くまさんは、5年後にどうしているだろう。
お父さんみたいな、立派な研究者になっているか?
それとも、実業家になっているのだろうか??

くまさんなら、大学に行っても、前向きに、しっかりと、一つ一つ意味のある時間をすごすに違いない。

まだ、くまさんが引っ越すまで、一週間ほど時間があるけれど、
その間、最後の同居生活を楽しもう。。と、思っていたのだが、、

ひとみさんが、何だか大変なことになっていた。

ひとみさんは、この一週間ほど、体調を崩して寝込んでいた。
本人もそう言っていたし、吐き下しの風をひいたのだとみんなが思い込んでいたけれど、
実は違った。





< 34 / 138 >

この作品をシェア

pagetop