くまさんとうさぎさんの秘密

お城の従者たち

俺たちが研究室に飛び込んだとき、中野さんは、作業員の人に文句を言っているところだった。
「これ、置いてくって言ってました。聞いてませんか?!」
「そういう訳には、。」
時田さんが、割り込んだ。
「先生、誤解を招くご説明で、申し訳ありませんでした。中身を書き換えたり、触らないとは言いました。中身には触らない。でも、見せてもらうことはご了承いただかないと。そうしないと、危険があったら、注意喚起が必要だし、危険が大きいと回収も必要なので、形式的には一度お預かりが必要なんです。。」
中野さんは腕を組んで、時田さんを見下ろした。
「触らないって言いましたよね。保障もいらないって説明させていただいてます。回収の可能性もあるなら、断固拒否よ。」
「先生が回収になるようなことするわけありません。形式的なチェックだけなんです。すみません、うちのロゴが入っている以上、そういう訳には。。」
「これには入ってない。」
どうも、中野さんは、ハードディスクの持ち出しに抵抗しているらしい。
「中身は、形式的なチェックだけでお返しします。壊しません。中野先生が、とてもよく分かってご利用いただいていることは、重々承知しています。」
「手続きだけなら待ちますけど、時田さんの責任で、明日返してください。」
「明日。。先生、すみません、明後日の朝イチでいかがでしょうか。。」
「明日って言ったら明日よ。」
「分かりました。。こちらで、コピーをとった上で、コピーをチェックすることをご了承いただけますか??」
「はっっ、?コピー??」
「コピーも、後日にこちらに持ってきた上で、責任を持って消去します。」
「じゃ、ここでコピーとって。時田さんの責任で、必ず全てのコピーは、こっちに返してください。よそに漏れたら、そちらについては、時田さんに責任問います。」
「作業にはお時間いただきたいので、できましたら、持ち帰らせていただけたら。。」
「ここでやってもらって結構です。」
「今日は、ケーブルもなにも無いので、明日出直します。先生、ハードディスクにも耐久性があるので、先生の研究を守るためにも、ご協力お願いしますよ。」
「ギリギリ了解。時田さん、私のこと、頭固い連中から助けてくれてるのは、分かってる。頼りにしてる。」
俺は、その、中野さんの声が、ちょっと甘えた感じだったことが、心にひっかかった。

「こんにちは」俺は、何にも関係ないふりをして、挨拶した。
「こんにちは。先生の授業をとっている、熊谷です。」
時田さんは、冷や汗をかきながら、俺のことを振り返って、それから、中野さんを見た。
「ああ、こちら、熊谷先生のご子息の義明君です。」
「中野先生、俺、ものすごく中身に興味があるんだけど、俺もいろいろ教えてもらって良いですか?」
と、俺は言った。
「熊谷先生のご子息ね。、、」
中野さんは、俺を見た。
「私も、ちょっと興味がある気がするわ。時田さん、明日午前中には対応します。熊谷君は、明日機械が帰ってくる頃に来れる?」
「俺、大事な立体動画があるんだけど、持ってきて良いですか?」
「また明日ね。」
中野先生は、奥の部屋に引っ込んでしまった。。
「義明君、君さ、中身なんだけど、もし中野さんから話を聞くなら、俺もいろいろ説明するから、危険がないかだけ、チェックするの助けてくれないか??」と、時田さんが言った。
「どこか問題があるんですか?」
「うちも、別の体制で支援することが必要なんだ。中野さんは。そもそも、この機械については、中身書き換えたりなんて、禁止なんだよ。今のままじゃ、壊れたら全部彼女が責任追うことになるし、事故が起こっても、過失があるから、やっぱり彼女1人で責任追うことになる。自分で全部やれちゃう人なのかもしれないけど、俺も手放したくないし、彼女も、「あんたたちなんかいりません」とは言わない。」
「どういう危険が考えられますか?」
「これ、元々3次元で高速とはいえ、静止画の機械なんだけど、勝手に書き換えて、動画になってるんだ。書き換えの時に、機械が破損したり、事故が起こりかねない方法になってないか確認が必要。多分、うちに持って帰っても、チェックなんて誰もできないよ。書き換えたものが機械を動かすから、間違った動かしかたすると、部屋の中電子レンジにできたりもしかねないんだ。高速とは言え、ここまでたくさん出力する使い方も想定してないから、耐久性見て、壊れる前に止まるとか、危険になる前に止めるとか、誰かチェックできる人間が必要なのは間違いないよ。」
「刺激的ですね。」
「そうだね。めんどうだけど、面白いから、手放すよりは、前向きに付き合いたい客だね。彼女、熊谷先生の本読んで、うちの機械の中身書き換えちゃったんだ。熊谷先生が生きてたら、紹介したいところだよ。」
「まあ、明日出直しますか。また、時間が決まったら、教えて下さい。」
という訳で、大学に行く楽しみが増えた。

大学で、2つ狙っていたことがある。1つは、このプリンティングメタルの研究者の人たちとつてを作ること。もう1つは、、産学連携のプロジェクトの予算をいただくこと。

ひとみがいつも言ってた。
「強欲なのがダメなんじゃないの。欲はとても大切なのよ。問題は、欲を満たす手段を間違えないこと。」
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