くまさんとうさぎさんの秘密
錬金術
by中野 馨
机の上で、不思議なものが動いていた。
胎児。これは、熊谷泰明氏が超音波でとった画像から加工した。
元の立体動画よりも、もっと、実体を伴ってリアルなもの。
「すごい。。噂には聞いてたけど。」と、熊谷義明は唸った。
私は、今、すこぶる機嫌がいい。すごいねという誉め言葉にも、相手が作った壁の高さがにじみ出ていることが多い。中身がブラックボックスな人の感想というものに、あまり興味を持てない。きっと、起業するなら、ユーザーのニーズを聴ける耳も必要なのだろうけど。
でも、彼の「すごい」は違う。彼は、中身を暴くためにやって来た。再生機の中身を暴こうとしている。動画の情報を、電気と温度の信号に書き換える再生機に、本気で興味を持っている。彼が何を狙っているのかは、明確で、私も、ものすごく興味がわいた。
パチン、と、スイッチを切ったら、胎児の体を成していたものは、だらりと溶け落ち、実験台の上に広がった。
「おおっ」と、熊谷氏はちいさな声をあげた。
「これが、今のところベストのプリンティングメタルだよ。」
私は、笑った。
この後、研究室に泊まり込みで5連休をすごすことになる。
熊谷氏の父親は、若くでお亡くなりになったが、有名な研究者だった。私は、かろうじて、彼の論文は、理解している。どうしても、再生機の方に工夫が必要で、自分で改良したことが、メタルの進化につながった。
私は、プラスチックと金属両方についての研究者集団に所属していて、周りに畑違いの論文を読む人は、あまりいない。
畑違いのため、熊谷泰明氏の論文までは理解しても、それ以後は、ややこしいわりにさほどの改善点もなく、つぎはぎに見えるし、工夫されている点もぴんとこないから、興味もわかなかった。だから、それ以上に再生機の方をいらおうとはしなかった。
私は、それ以上のことは考えていなかったし、まさかその道の人と共同で何かしようとも思っていなかった。
熊谷泰明の、息子さんも、何やら華々しく分科会で取り上げられているのは知ってたけれど、たいして興味もなかった。私からすれば、泰明氏の業績に言い訳をつけて新しいふりをしているケチな研究者の1人に見えたからだ。
しかし、本人と出会えてものの見方が変わった。
「熊谷君、若いね」と、私は言った。5日目の朝だ。
夢中になって彼に説明していたが、気がついたらくたくただった。。肌がカサカサだった。
「よく言われます。」と、義明氏は笑った。この子、アンドロイドのようだと思った。肌が綺麗だ。最新のプラスチック制なんじゃないだろうか。。
「私は、体力がついていかないわ。。明日から2日は休むから、連絡してこないでね。。」
「明日から学校じゃないですか??」
「本当はそうなんだけど、あと、生活のために、言い訳みたいな論文の締切も迫ってるんだけど、もう限界よ。」
「大変な時に付き合わせてしまって、本当に申し訳ないです。。俺の方は、めちゃくちゃ宿題できたんで、しばらくこの再生機一人でさわっても良いですか??」
「了解。でも、壊したら弁償ね。」
私は、家までタクシーで帰ることにした。
研究棟から出ると、時田さんが立っていた。
「コピー持って来ました。」と、時田さんは言った。
「研究室に熊谷君がいるわ。彼に預けるか、私がいるときに出直して。私、くたくたなの。帰るところよ。」
「出直します。バックアップ用にこちらのハードディスクは寄贈しますよ。先生に信頼してもらわなきゃならないんで。駅まで送りましょうか?」
「駅じゃないの。徒歩圏内よ。病院の裏だわ。」
「じゃ、病院まで送りましょうか?ちょうど、病院にも顔出そうかと思ってたんです。」
自宅までの道のりは遠い。私は、好意に甘えることにして、時田さんの隣に乗り込んだ。
机の上で、不思議なものが動いていた。
胎児。これは、熊谷泰明氏が超音波でとった画像から加工した。
元の立体動画よりも、もっと、実体を伴ってリアルなもの。
「すごい。。噂には聞いてたけど。」と、熊谷義明は唸った。
私は、今、すこぶる機嫌がいい。すごいねという誉め言葉にも、相手が作った壁の高さがにじみ出ていることが多い。中身がブラックボックスな人の感想というものに、あまり興味を持てない。きっと、起業するなら、ユーザーのニーズを聴ける耳も必要なのだろうけど。
でも、彼の「すごい」は違う。彼は、中身を暴くためにやって来た。再生機の中身を暴こうとしている。動画の情報を、電気と温度の信号に書き換える再生機に、本気で興味を持っている。彼が何を狙っているのかは、明確で、私も、ものすごく興味がわいた。
パチン、と、スイッチを切ったら、胎児の体を成していたものは、だらりと溶け落ち、実験台の上に広がった。
「おおっ」と、熊谷氏はちいさな声をあげた。
「これが、今のところベストのプリンティングメタルだよ。」
私は、笑った。
この後、研究室に泊まり込みで5連休をすごすことになる。
熊谷氏の父親は、若くでお亡くなりになったが、有名な研究者だった。私は、かろうじて、彼の論文は、理解している。どうしても、再生機の方に工夫が必要で、自分で改良したことが、メタルの進化につながった。
私は、プラスチックと金属両方についての研究者集団に所属していて、周りに畑違いの論文を読む人は、あまりいない。
畑違いのため、熊谷泰明氏の論文までは理解しても、それ以後は、ややこしいわりにさほどの改善点もなく、つぎはぎに見えるし、工夫されている点もぴんとこないから、興味もわかなかった。だから、それ以上に再生機の方をいらおうとはしなかった。
私は、それ以上のことは考えていなかったし、まさかその道の人と共同で何かしようとも思っていなかった。
熊谷泰明の、息子さんも、何やら華々しく分科会で取り上げられているのは知ってたけれど、たいして興味もなかった。私からすれば、泰明氏の業績に言い訳をつけて新しいふりをしているケチな研究者の1人に見えたからだ。
しかし、本人と出会えてものの見方が変わった。
「熊谷君、若いね」と、私は言った。5日目の朝だ。
夢中になって彼に説明していたが、気がついたらくたくただった。。肌がカサカサだった。
「よく言われます。」と、義明氏は笑った。この子、アンドロイドのようだと思った。肌が綺麗だ。最新のプラスチック制なんじゃないだろうか。。
「私は、体力がついていかないわ。。明日から2日は休むから、連絡してこないでね。。」
「明日から学校じゃないですか??」
「本当はそうなんだけど、あと、生活のために、言い訳みたいな論文の締切も迫ってるんだけど、もう限界よ。」
「大変な時に付き合わせてしまって、本当に申し訳ないです。。俺の方は、めちゃくちゃ宿題できたんで、しばらくこの再生機一人でさわっても良いですか??」
「了解。でも、壊したら弁償ね。」
私は、家までタクシーで帰ることにした。
研究棟から出ると、時田さんが立っていた。
「コピー持って来ました。」と、時田さんは言った。
「研究室に熊谷君がいるわ。彼に預けるか、私がいるときに出直して。私、くたくたなの。帰るところよ。」
「出直します。バックアップ用にこちらのハードディスクは寄贈しますよ。先生に信頼してもらわなきゃならないんで。駅まで送りましょうか?」
「駅じゃないの。徒歩圏内よ。病院の裏だわ。」
「じゃ、病院まで送りましょうか?ちょうど、病院にも顔出そうかと思ってたんです。」
自宅までの道のりは遠い。私は、好意に甘えることにして、時田さんの隣に乗り込んだ。