くまさんとうさぎさんの秘密
イタズラ
by熊谷義明
世の中は、順調に進歩していた。
春に、3次元の再生機を供えたゲーム機が出た。
ロールプレイングやパズルゲームから、3次元動画が飛び出した。
ちょっとイラッとしたりもしたけど、
早速、サークルでアプリをつくって販売することにした。複数枚写真を撮影したものを3次元静止画像に変換するアプリを作って販売を始めた。ゲーム機会社の方も、アプリやゲームに対する門戸を開いていて、購入推奨ではないが、動作確認済みの認定をもらった。
「15万円強だよ。妥当な値段だけど、実験機器とは比べ物にならない数売れるんだろうな。」俺は、言った。
サークルの人達は、いわゆる一般受けみたいなものが得意分野だ。何か、楽しく遊んでくれる。
アプリも、地図アプリの写真を何枚かパクって大学の建物を立体で表示したり、美術品を立体表示したり、花の立体画像を拡大してみたり、何だか高級感と有益感溢れる宣伝動画も作った。拡大には耐えるようにこだわった。大学も、すこぶる協力的だった。
はにかんだ女の子の3次元静止画を、くるっと回転する様子、あと、二人のカップルの静止画も、くるっと回転させたら、後ろ手に手をつなぐ様子が見えるといったコマーシャルも撮った。
「大学満喫だね」と、宇佐美が笑った。
はにかんだ女の子の画像を、右に動かしたり、左に動かしたりして、彼女は遊んでいた。
その、宇佐美は、俺が、何度か彼女に触れたい衝動にかられたことに、気がついているだろうか。。
店で再会した瞬間というのは、すごい衝撃だった。
俺は、全く女性経験がないし、普段は別に不満もない。あんまりそういうことは、考えない。洋治は、ある時期までエロいことばかり言ってたけど、突然言わなくなったから、あゆみと付き合うようになって、落ち着いたんだと思う。
男女問わず、友達とは、良い人間関係を作ろうと努力してきた。逆に言うと、距離と節度を守る習慣もついていた。実際問題、女の子に対して、何の衝動もないからうまくやれたと言える。
けど、宇佐美に対して、俺は、ちょっとおかしくなる時がある。女の子に「女になる」瞬間があるとしたら、俺が「男になった」初めての瞬間は、あの時だ。。宇佐美に再会したあの時。
前々から、隙のない所作がしっかりと叩き込まれた奴だとは思っていた。宇佐美は、綺麗だとは思っていた。
けれども、床に掘り出されて、スカートがはだけて、すらりと華奢な素足にひっかかった壊れた靴を見た瞬間、恐怖に見開かれ、こぼれる前の涙が滲んだ黒目勝ちの目を見た瞬間。
その、つまり、初めての女がエロいと感じた瞬間で、
いろいろと一晩もんもんとした結果が、あの動画なのだ。しかも、それも、彼女に見られてしまっている。俺、かなりキモいやつだったかもしれない。。
いろいろ、自分でも、本当にアホらしいごまかしかたやちょろまかしかたをして、その後も、宇佐美とは良い距離を保ってやってきた。宇佐美の方も、もしかしたら、俺に警戒するようなことがあったかもしれない。
あったかもしれないけど、一応今のところ、彼女と居心地良い距離を守れていると自負している。
一度、前嶋さんが、例のひとみの虫籠を抱き締めているのを見てしまったことがある。前嶋さんは、時々、とても苦しそうな顔をする。あの人の衝動は、俺よりもっと抑えの効かないものなんだろう。
比べるものでもないかもしれないけど。
「宇佐美は、学校どう?」
宇佐美と話をするのは、久しぶりだ。
「まあまあ、何とかやってるよ。レベル落として受けたから、授業は楽勝。テストとか、時間がもったいないし、時間半分までで終わらせることにした。あと、実は、軽音に入ったよ」
「そっか。意外な感じ、、?」
新情報。意外な感じだ。
「ひとみさんの影響だよ。私も、実は小さい頃からピアノ習ってたんだよね。ジャズやってる先輩がいたから、いれてもらったの。」と、宇佐美は言った。
大学のピアノ室を使う権利を持っているのが、ピアノクラブと軽音だったそうだ。保育士など、資格取得を目指していて、練習場所がない人は、必然的にどちらかに所属することになる。
宇佐美曰く、ピアノクラブは、行ったらエロかったそうだ。何言ってんのか分からん。
「うちで練習していいよ。全然。」
「ありがとう。本当は、ピアノクラブだと、資格取得にぴったりの練習してる一団があるみたい。良いペースメーカーになると思ったんだけど、軽音のジャズの先輩の方がストイックな感じだったのよ。時々ライブやるらしいんだけど、それを目安に練習しようかなあと。」
大丈夫なんだろうか。。
宇佐美のあの、はだけたスカートの画像が、頭の中にちらつく。
ひとみだって、店ではいろいろある。前嶋さんにがっちりガードされてるから、もめたことは無かったけど、それだって、まあ、よりによって前嶋さんとこんなことになってしまった訳であって。。
「ライブって、どこでやんの?」
「ちゃんとライブハウスでやるんだよ。メジャーなバンドも、デビュー前にやってたようなとこ。ドラムの人がいなくて、何曲か他の学校の男の子が入るんだって。」
「大丈夫かよ。。」
「メンバーさんの彼氏って言ってた。」
「彼氏とか彼女とか、軽いよな、、。」
「ちゃんと付き合ってるんだよ。ふらふらしてる人より、よっぽどちゃんとした感じ受けたよ。肥後橋君達だってそうじゃん。」
「デビューしたいわけ?」
「保育士になりたい。」
「ま、節度を保って頑張れよ」
「何それ??、」
「だって、大学デビューで浮わついてるやつもいっぱいいるのは分かってるじゃん。」
「音楽の発表するんだよ。私以外彼氏いて、みんな迎えに来るんだから。ナンパしようとか、そういうの引っ掛かりそうにもない人たちだから、入ったの。」
(危険なテンションじゃん。。)
「俺、見に行って良い?」
「見に来てくれるのは、大歓迎だよ。何だ、バカにされてるのかと思った。」
「バカにはしてないよ。全く分かってないとは思うんだけど。」
「分かってないって何よ。そりゃあさ、くまさんやひとみさんみたいにうまくないけど、普通の子にだって、頑張ってみんなに見てもらえる場所も必要じゃん。学校のクラブって、そういう場所なんじゃないの?私だって、前嶋さんに雇ってもらえるようなレベルじゃないって分かってるよ。でも、学芸会みたいな時くらい、ひとみさん気分味わってみたいよ。」
「上手いとか下手とか普通とかプロじゃないとか、お前の技術の問題じゃないよ。俺はさ、宇佐美が何やってても、そのまま見守ってやりたいと思うけど、、ちょっとは周りに警戒心持てよ。お前の自由にできる場所じゃないんじゃないの?」
「くまさん、時々何言ってるか分からない。」
「分からなくて結構。俺、今夜は泊まって、明日の朝早くに帰るわ。」
俺は、風呂に入ることにして、部屋をあとにした。
世の中は、順調に進歩していた。
春に、3次元の再生機を供えたゲーム機が出た。
ロールプレイングやパズルゲームから、3次元動画が飛び出した。
ちょっとイラッとしたりもしたけど、
早速、サークルでアプリをつくって販売することにした。複数枚写真を撮影したものを3次元静止画像に変換するアプリを作って販売を始めた。ゲーム機会社の方も、アプリやゲームに対する門戸を開いていて、購入推奨ではないが、動作確認済みの認定をもらった。
「15万円強だよ。妥当な値段だけど、実験機器とは比べ物にならない数売れるんだろうな。」俺は、言った。
サークルの人達は、いわゆる一般受けみたいなものが得意分野だ。何か、楽しく遊んでくれる。
アプリも、地図アプリの写真を何枚かパクって大学の建物を立体で表示したり、美術品を立体表示したり、花の立体画像を拡大してみたり、何だか高級感と有益感溢れる宣伝動画も作った。拡大には耐えるようにこだわった。大学も、すこぶる協力的だった。
はにかんだ女の子の3次元静止画を、くるっと回転する様子、あと、二人のカップルの静止画も、くるっと回転させたら、後ろ手に手をつなぐ様子が見えるといったコマーシャルも撮った。
「大学満喫だね」と、宇佐美が笑った。
はにかんだ女の子の画像を、右に動かしたり、左に動かしたりして、彼女は遊んでいた。
その、宇佐美は、俺が、何度か彼女に触れたい衝動にかられたことに、気がついているだろうか。。
店で再会した瞬間というのは、すごい衝撃だった。
俺は、全く女性経験がないし、普段は別に不満もない。あんまりそういうことは、考えない。洋治は、ある時期までエロいことばかり言ってたけど、突然言わなくなったから、あゆみと付き合うようになって、落ち着いたんだと思う。
男女問わず、友達とは、良い人間関係を作ろうと努力してきた。逆に言うと、距離と節度を守る習慣もついていた。実際問題、女の子に対して、何の衝動もないからうまくやれたと言える。
けど、宇佐美に対して、俺は、ちょっとおかしくなる時がある。女の子に「女になる」瞬間があるとしたら、俺が「男になった」初めての瞬間は、あの時だ。。宇佐美に再会したあの時。
前々から、隙のない所作がしっかりと叩き込まれた奴だとは思っていた。宇佐美は、綺麗だとは思っていた。
けれども、床に掘り出されて、スカートがはだけて、すらりと華奢な素足にひっかかった壊れた靴を見た瞬間、恐怖に見開かれ、こぼれる前の涙が滲んだ黒目勝ちの目を見た瞬間。
その、つまり、初めての女がエロいと感じた瞬間で、
いろいろと一晩もんもんとした結果が、あの動画なのだ。しかも、それも、彼女に見られてしまっている。俺、かなりキモいやつだったかもしれない。。
いろいろ、自分でも、本当にアホらしいごまかしかたやちょろまかしかたをして、その後も、宇佐美とは良い距離を保ってやってきた。宇佐美の方も、もしかしたら、俺に警戒するようなことがあったかもしれない。
あったかもしれないけど、一応今のところ、彼女と居心地良い距離を守れていると自負している。
一度、前嶋さんが、例のひとみの虫籠を抱き締めているのを見てしまったことがある。前嶋さんは、時々、とても苦しそうな顔をする。あの人の衝動は、俺よりもっと抑えの効かないものなんだろう。
比べるものでもないかもしれないけど。
「宇佐美は、学校どう?」
宇佐美と話をするのは、久しぶりだ。
「まあまあ、何とかやってるよ。レベル落として受けたから、授業は楽勝。テストとか、時間がもったいないし、時間半分までで終わらせることにした。あと、実は、軽音に入ったよ」
「そっか。意外な感じ、、?」
新情報。意外な感じだ。
「ひとみさんの影響だよ。私も、実は小さい頃からピアノ習ってたんだよね。ジャズやってる先輩がいたから、いれてもらったの。」と、宇佐美は言った。
大学のピアノ室を使う権利を持っているのが、ピアノクラブと軽音だったそうだ。保育士など、資格取得を目指していて、練習場所がない人は、必然的にどちらかに所属することになる。
宇佐美曰く、ピアノクラブは、行ったらエロかったそうだ。何言ってんのか分からん。
「うちで練習していいよ。全然。」
「ありがとう。本当は、ピアノクラブだと、資格取得にぴったりの練習してる一団があるみたい。良いペースメーカーになると思ったんだけど、軽音のジャズの先輩の方がストイックな感じだったのよ。時々ライブやるらしいんだけど、それを目安に練習しようかなあと。」
大丈夫なんだろうか。。
宇佐美のあの、はだけたスカートの画像が、頭の中にちらつく。
ひとみだって、店ではいろいろある。前嶋さんにがっちりガードされてるから、もめたことは無かったけど、それだって、まあ、よりによって前嶋さんとこんなことになってしまった訳であって。。
「ライブって、どこでやんの?」
「ちゃんとライブハウスでやるんだよ。メジャーなバンドも、デビュー前にやってたようなとこ。ドラムの人がいなくて、何曲か他の学校の男の子が入るんだって。」
「大丈夫かよ。。」
「メンバーさんの彼氏って言ってた。」
「彼氏とか彼女とか、軽いよな、、。」
「ちゃんと付き合ってるんだよ。ふらふらしてる人より、よっぽどちゃんとした感じ受けたよ。肥後橋君達だってそうじゃん。」
「デビューしたいわけ?」
「保育士になりたい。」
「ま、節度を保って頑張れよ」
「何それ??、」
「だって、大学デビューで浮わついてるやつもいっぱいいるのは分かってるじゃん。」
「音楽の発表するんだよ。私以外彼氏いて、みんな迎えに来るんだから。ナンパしようとか、そういうの引っ掛かりそうにもない人たちだから、入ったの。」
(危険なテンションじゃん。。)
「俺、見に行って良い?」
「見に来てくれるのは、大歓迎だよ。何だ、バカにされてるのかと思った。」
「バカにはしてないよ。全く分かってないとは思うんだけど。」
「分かってないって何よ。そりゃあさ、くまさんやひとみさんみたいにうまくないけど、普通の子にだって、頑張ってみんなに見てもらえる場所も必要じゃん。学校のクラブって、そういう場所なんじゃないの?私だって、前嶋さんに雇ってもらえるようなレベルじゃないって分かってるよ。でも、学芸会みたいな時くらい、ひとみさん気分味わってみたいよ。」
「上手いとか下手とか普通とかプロじゃないとか、お前の技術の問題じゃないよ。俺はさ、宇佐美が何やってても、そのまま見守ってやりたいと思うけど、、ちょっとは周りに警戒心持てよ。お前の自由にできる場所じゃないんじゃないの?」
「くまさん、時々何言ってるか分からない。」
「分からなくて結構。俺、今夜は泊まって、明日の朝早くに帰るわ。」
俺は、風呂に入ることにして、部屋をあとにした。