くまさんとうさぎさんの秘密

女の子

by 宇佐美 優那
また、梅雨がやってきた。
保育園でバイトを始めてから、ちょうど一年がたった。
今年も紫蘇ジュースと梅ジュースの材料を用意する季節がやってきた。
私のことを、「優那先生」と呼んでくれる園児も増えた。

ジャズバンドの方は、意外な展開を見せていた。本当に、入って良かった。
というのも、なんとまあ、この保育園で、日曜日にアニメソングの発表をさせてもらえることになったのだ。

松野さんも、私と同じ保育士志望だった。
入部当初、話題もなく、自己紹介の際に、私が保育園でバイトしていることを話したら、
保育の先輩たちから「羨ましい」と、興味を持ってもらえた。
バイトは募集していなかったが、その話を園長先生にしてみたところ、
「ぜひ、保育園に演奏に来て」という話になったのだ。

日曜日の園庭開放の時間に、ジャズコンサートが企画された。
ちょうど雨の季節で、外では遊べないだろうし、保育園の遊戯室でおさまる
イベントがほしかったのだそうだ。
松野さんと私で、保育園の子どもたちに喜んでもらえるような演目を考えた。
ジャズバンドと言えば、国民的長寿番組の「さ○えさん」とか、
今はやりのモンスターのアニメとか、あと、子どもが踊ったり体を動かしたりできるように、
盆踊りをアレンジすることになった。七夕祭りで踊るために、園庭で子どもと練習している盆踊りだ。

松野さんが本当に好きな曲目は、ちょいエロなロックバンドなので、
話が通じない人かと思ったら、冗談も、ちびっこも理解してくれる人だった。

うちのバンドは、軽音唯一のジャズバンドで、
ボーカル、トランペット、サックス、ピアノ、ベースにドラムという構成だ。
全曲全員で演奏するわけではない。
「こんなの合わせたいんだけど、参加する???」「やるやる!!」といったノリだった。

松野さんの彼氏のキヨシさんは、専門学校生で、カップルでツインボーカルで練習している曲もあった。
私は、この2人のツインボーカルの声が大好きになった。
すっごくいいカップルで、2人が一緒に前にいてくれると、すごく場が盛り上がった。
保育園には、松野さんと、キヨシさんと、キヨシさんのお友達のリュウジさん、ピアノの私と、トランペットの相田さんとで出向くことになった。

トランペットの相田さんも保育士志望で、市内の管弦楽団にも所属していて、まじめだし、でも、演奏については何にでもチャレンジする人だった。楽団に同じくトランペットをやっている幼馴染の彼氏がいて、えらく無口で身なりの良い人で、いつも物の良いジャケットを羽織っていた。
相田さんもいつもピシッと糊のきいた白いブラウスや、ふわふわのスカートを着ていて、2人が並ぶ姿は、本当にお似合いだった。

ドラムの戸口さんと、サックスの平林さんは、ちょっと暗い感じの人だった。私は、この人達が嫌いではないけど、2人には、みんなが気を遣っていることは分かっていた。
戸口さんは、大学自体休みがちだし、発表の日に都合がつかなければ、練習にも入らなかった。
平林さんは、好みが偏っていて、アニソンは無理だった。
毎回、学内メンバーの2人に先に声をかけて、断られれば、自動演奏の打ち込みか、リュウジさんを借りてくる流れになっていた。

2人がいない時の方が、盛り上がる。それは、事実だけど、学内のメンバーでやりたい気持ちが私にはあった。
「ちゃんと、舞台に上がるかどうかは、自分で決めないとね。無理せず、でも、約束は守ろうっていうのが、ジャズチームの決まり」と、松野さんは教えてくれた。

去年の今頃は、バイトの帰り道はずっとくまさんと一緒だった。
くまさんがいなくなったら、すっごいさみしいんだと思ってたけど、何とかやってる。

去年は、、くまさんのおかげですごく充実してたけど、罪悪感が消せない一面もあった。

私なんかに、ここにいる権利ないって、思いながら、
くまさんにはめちゃくちゃな屁理屈ぶちかまして居座ってた。くまさんが、そのまんま受け入れてくれたもんだから、全く自覚なかったけれど、
今思い出すと、去年のことはじめは、本当に恥。恥ずかしさが消えない。

くまさんがいなくなってから、ひとみさんとの同居は、仲のいい友達との2人暮らしみたいになっていた。
バイトから走って帰ったら、ひとみさんがピアノの練習に付き合ってくれることになってる。
ひとみさんの赤ちゃんが、すっごく楽しみ。本当に楽しみ。

私は、多分、くまさんが好きだ。でも、だからこそ、去年の自分がちょっと嫌い。
女使って人の優しさに付け入る自分が、ちょっと嫌い。
自分が一番情けない時に、すごい、くまさんはかっこよかった。
あのトラウマがなくなったら、くまさんと何か関係が変わるときが来るのかな??

とにかく、くまさんのために何ができるかも、ちゃんと考えれるようになりたい。



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