くまさんとうさぎさんの秘密
by 宇佐美 優那
今日だけは、ちょっとはめをはずした。中学校は寮だったし、高校だって生活に追われてた。他の子が遊んでる間に、自分だけはバイトだったりもした。
行きたかったけど、行けなかったカラオケ。行きたかったけど、行けなかったファストフード、行きたかったけど、行けなかったボーリング、それを誰かに話す機会もない生活。。リュウジさんは、それを分かってくれる人だった。多分、こういう生活の苦労は、経験者でないと分からないものがあると思う。。
私達は、ひとみさんが働いていた店の斜向かいのカラオケで、食べ物をつまみながら、いっぱいはしゃいだ。楽しくすごした後、店を出るとき、リュウジさんが鏡を差し出した。
「宇佐ちゃん」
お化粧は、テカってた。でも、すごく楽しそうな自分がいた。
リュウジさんは、ちょちょっと化粧をなおししてくれた。
「当日、心配だったら、舞台袖に道具持って待機しとくよ。裁縫セットとかも持ち込んどくから。」と、彼は言った。「ありがとう」と、私は言った。
店からでて、まあ、そういうことがあってもおかしくはないんだけど、、
くまさんと、目があった。私もしばらく状況が見えなかったし、くまさんも、しばらく私だとは分からなかったみたい。
くまさんは、何人かでひとみさんの店から出てきたところのようだった。。
咄嗟に、声がでなかった。。
自分の状況を思い出したから。いかにもチームですみたいな、お揃いの衣装をきて、しかも、平林さんとリュウジさんは、かなり飲んでた。
「お前、何やってんの???」くまさんは、びっくりしたような声を出した。びっくりしただけかもしれないけれど、、怒っているようにも見えた。。
「何って、、」私は、思わずリュウジさんと平林さんの後ろに隠れた。。
リュウジさんが聞いた。
「大丈夫?」
くまさんは無言で、リュウジさんの方を見た。。
リュウジさんは、私が後ろに隠れたことに気がついていた。
「宇佐ちゃん、知り合い?」と、平林さんが尋ねた。
「あの、、」何て答えていいか分からない。。
「あの人は、高校の同級生です。私、あの人の家においてもらってるの。。」と、私は言った。
「彼氏と住んでるんだ、、。。どっかで見たことある気がするんだよね。。」と、平林さんが言った。「彼氏じゃ、ないんです。」と、私は小声で答えた。。
くまさんはくまさんで、えらくイケイケな短パンの女の子と、サラリーマン風のスーツのイケメンと一緒だった。くまさん自身は、ピンクのシャツに白い詰め襟のジャケットを羽織って、グレーのスラックスをはいていた。。
「熊ちゃん、お友達?」と、女の子は言った。
「相当よってるよね。」と、スーツのイケメンが女の子を後ろから支えようとした。
「やめてよね。やる気ないやつは、嫌いよ」と、女の子はサラリーマンを振り切って、くまさんの手を握った。
「熊ちゃん、頼りにしてる。こんなこと誰かに言うの初めてだよ。ずっとみんな、私の邪魔しかしないって思ってた。」彼女の話は、そのあと長々と続いてたみたいだけど、私の頭には入ってこなかった。。
くまさんは、女の子の手をそっと握りかえし、彼女の顔をじっと見つめた。それから、やっぱりそっと、彼女の手を隣のサラリーマンの手の上に乗せた。
そして、こちらを振り替えって、言った。
「宇佐美、もう帰る時間だよな。」
その、言葉の趣旨は、私には分からなかった。くまさんが、ちょっとイライラしてるようにも見えた。そういえば、保育園の1番遅いお預かりの子達も、とっくに帰ってる時間だ。
「あの。。」
「すいません。うち、門限厳しいんで、帰してもらえます?」
くまさんは、ずんずんとこちらに歩いてきた。
帰ろうとは思ってたけど、ちょっと足がすくんだ。
「大丈夫?」と、リュウジさんが私の顔を見て言った。
気をとりなおす。
「すみません、ちょっと遅くなりすぎちゃった。そろそろ帰ります。」私は、リュウジさんに言った。それから、平林さんと、リュウジさんの脇をすり抜けて、くまさんの方に駆け寄った。何か、今くまさんをこっちに近づけてはダメな気がした。
その時、平林さんが、声をあげた。
「分かった!!熊谷君だ??」
くまさんは、平林さんの方を見た。
「どこかで会ったっけ?、」
「みやこだよ。平林みやこ。セッションしたことあるよ。すっごい大人になったね。。」
「ああ、音楽続けてるんだ。。」
「熊谷君は、やめちゃったんだよね。」
世の中は狭い。と言うか、生まれてから20年近く住んでる町をうろうろしてるんだから、そこら中知り合いだらけだ。
「くまさん、学校は?どうしてこっちいるの?」私は、ようやく自分の声をあげれた。
くまさんは、私の手をつかんだ。
「説明するけど、ひとまず帰ろう。」
それから、平林さんの方を振り返った。
「宇佐美と友達?」
「同じ学校で、同じサークルだよ。今もサックスやってる。ピアノはやめた。」
「そっか、じゃ、またな。」と、くまさんは言った。そして、平林さんだけではなく、そこに取り残された人々を見回して、
「皆様も、けして、ご無理なさらないように。今日はありがとうございました。」と言って、頭を下げた。
今日だけは、ちょっとはめをはずした。中学校は寮だったし、高校だって生活に追われてた。他の子が遊んでる間に、自分だけはバイトだったりもした。
行きたかったけど、行けなかったカラオケ。行きたかったけど、行けなかったファストフード、行きたかったけど、行けなかったボーリング、それを誰かに話す機会もない生活。。リュウジさんは、それを分かってくれる人だった。多分、こういう生活の苦労は、経験者でないと分からないものがあると思う。。
私達は、ひとみさんが働いていた店の斜向かいのカラオケで、食べ物をつまみながら、いっぱいはしゃいだ。楽しくすごした後、店を出るとき、リュウジさんが鏡を差し出した。
「宇佐ちゃん」
お化粧は、テカってた。でも、すごく楽しそうな自分がいた。
リュウジさんは、ちょちょっと化粧をなおししてくれた。
「当日、心配だったら、舞台袖に道具持って待機しとくよ。裁縫セットとかも持ち込んどくから。」と、彼は言った。「ありがとう」と、私は言った。
店からでて、まあ、そういうことがあってもおかしくはないんだけど、、
くまさんと、目があった。私もしばらく状況が見えなかったし、くまさんも、しばらく私だとは分からなかったみたい。
くまさんは、何人かでひとみさんの店から出てきたところのようだった。。
咄嗟に、声がでなかった。。
自分の状況を思い出したから。いかにもチームですみたいな、お揃いの衣装をきて、しかも、平林さんとリュウジさんは、かなり飲んでた。
「お前、何やってんの???」くまさんは、びっくりしたような声を出した。びっくりしただけかもしれないけれど、、怒っているようにも見えた。。
「何って、、」私は、思わずリュウジさんと平林さんの後ろに隠れた。。
リュウジさんが聞いた。
「大丈夫?」
くまさんは無言で、リュウジさんの方を見た。。
リュウジさんは、私が後ろに隠れたことに気がついていた。
「宇佐ちゃん、知り合い?」と、平林さんが尋ねた。
「あの、、」何て答えていいか分からない。。
「あの人は、高校の同級生です。私、あの人の家においてもらってるの。。」と、私は言った。
「彼氏と住んでるんだ、、。。どっかで見たことある気がするんだよね。。」と、平林さんが言った。「彼氏じゃ、ないんです。」と、私は小声で答えた。。
くまさんはくまさんで、えらくイケイケな短パンの女の子と、サラリーマン風のスーツのイケメンと一緒だった。くまさん自身は、ピンクのシャツに白い詰め襟のジャケットを羽織って、グレーのスラックスをはいていた。。
「熊ちゃん、お友達?」と、女の子は言った。
「相当よってるよね。」と、スーツのイケメンが女の子を後ろから支えようとした。
「やめてよね。やる気ないやつは、嫌いよ」と、女の子はサラリーマンを振り切って、くまさんの手を握った。
「熊ちゃん、頼りにしてる。こんなこと誰かに言うの初めてだよ。ずっとみんな、私の邪魔しかしないって思ってた。」彼女の話は、そのあと長々と続いてたみたいだけど、私の頭には入ってこなかった。。
くまさんは、女の子の手をそっと握りかえし、彼女の顔をじっと見つめた。それから、やっぱりそっと、彼女の手を隣のサラリーマンの手の上に乗せた。
そして、こちらを振り替えって、言った。
「宇佐美、もう帰る時間だよな。」
その、言葉の趣旨は、私には分からなかった。くまさんが、ちょっとイライラしてるようにも見えた。そういえば、保育園の1番遅いお預かりの子達も、とっくに帰ってる時間だ。
「あの。。」
「すいません。うち、門限厳しいんで、帰してもらえます?」
くまさんは、ずんずんとこちらに歩いてきた。
帰ろうとは思ってたけど、ちょっと足がすくんだ。
「大丈夫?」と、リュウジさんが私の顔を見て言った。
気をとりなおす。
「すみません、ちょっと遅くなりすぎちゃった。そろそろ帰ります。」私は、リュウジさんに言った。それから、平林さんと、リュウジさんの脇をすり抜けて、くまさんの方に駆け寄った。何か、今くまさんをこっちに近づけてはダメな気がした。
その時、平林さんが、声をあげた。
「分かった!!熊谷君だ??」
くまさんは、平林さんの方を見た。
「どこかで会ったっけ?、」
「みやこだよ。平林みやこ。セッションしたことあるよ。すっごい大人になったね。。」
「ああ、音楽続けてるんだ。。」
「熊谷君は、やめちゃったんだよね。」
世の中は狭い。と言うか、生まれてから20年近く住んでる町をうろうろしてるんだから、そこら中知り合いだらけだ。
「くまさん、学校は?どうしてこっちいるの?」私は、ようやく自分の声をあげれた。
くまさんは、私の手をつかんだ。
「説明するけど、ひとまず帰ろう。」
それから、平林さんの方を振り返った。
「宇佐美と友達?」
「同じ学校で、同じサークルだよ。今もサックスやってる。ピアノはやめた。」
「そっか、じゃ、またな。」と、くまさんは言った。そして、平林さんだけではなく、そこに取り残された人々を見回して、
「皆様も、けして、ご無理なさらないように。今日はありがとうございました。」と言って、頭を下げた。