くまさんとうさぎさんの秘密
くまさんのしっぽ
by 熊谷義明
疲れた。新学期から息切れがするくらいに忙しい。
下宿に戻ろうかとも思ったが、もう寝たい。
朝は強いから、大丈夫なはず。
宇佐見に、ドラッグのことを話してない。
洋治の話をするかどうかは、迷ってるけど、やめた。
でも、何らかの形で警戒心持ってもらわないと、絶対にこいつ引っかかる。
宇佐見は、つくづく無用心だ。
「くまさん、くまさん、」と、宇佐美が俺の手を後ろから引いた。宇佐美は、びっこひいてもたもたしている。。
「お前こそ、今日は、バイトはどうしたんだよ。」
「今日は、リハーサルだから休んだよ。今日は、特別だから、はめはずしちゃったの。本番は忙しくて、うちのチームは即解散なんだって。」と、宇佐美は、言った。
靴擦れだろうか。。
「宇佐美、悪いんだけど、俺、めちゃめちゃいそがしいし、早く寝たいんだ。」
俺は、宇佐美の前でかがんだ。
「さっさと乗って。」と、俺は背中をポンポンと叩いて言った。
「いいよ。ゆっくり一人で帰る。」
「こんなところに、女子、一人で残して帰れるわけないだろ。ただでさえお前、アホなのに。さっさと乗ってくれ。本当、ゆっくり歩く方がしんどいんだよ。」と、俺は、ちょっとばかりイライラ押さえながら言った。
俺は、こんなメンタル弱い人間だったっけ。。
宇佐美は、大人しく、俺におぶわれた。
えらく、軽かった。
スカートがまくれて、サンダルの素足が見えていた。こいつ、めちゃめちゃ足きれいだよな。と、ふと、いらないことを考える。けど、いらない妄想には蓋をして、さっさと帰宅すべしと、すたすた歩いた。
「くまさん、何でこっち来てたの?」
宇佐美が耳元で、眠そうに言った。
「勉強のこと。親父の知り合いと、人間科学の先生に会ってた。」
「お父さんの知り合いって、、えらい若いよね。」
「どっちのこと言ってんのか分からないけど、、時田さんて、男の方が親父の学生だった人で、女の方が人間科学の先生で、先生の研究室がこっちにあるんだよ。ちょっと用があって、遅くなったから晩ごはんしてたら、二人とも出来上がっちゃったわけ。」
「くまさん、大学生活満喫だね。。」
洋治にも言われたっけ。。
「あのさ、宇佐美、ドラッグって、毒入りの飴ちゃん流行ってるって知ってる?」
「知らない。」
「見た目普通の飴ちゃんなんだけどさ、食べると脳の神経が壊れたりするの。」
宇佐美は、疲れたのか、俺の背中に、ペッタリと頬を当てた。
「毒入りの飴ちゃんどうしたの?」
「危ないから、人に飴もらっても、口にいれるなよ。」
ちょっと間があった。
「知らない人からもらったもの口にいれないよ。」と、宇佐美は答えた。
「知り合いだからって安全とは限らないんだよ。飴くれた友だちが騙されることだってある。後で、友達が気がついたときに、お前が「まだ食べてないよ」って言ったら友達だってほっとするんだよ。だから、ちゃんと調べるまで口にいれるな。」
丸々ひとみの受け売りだ。でも、自分がこれで助かったから、言葉に力がこもる。
「調べるって、何すんの?」宇佐美は、めんどくさそうにたずねた。
「お前が調べたんじゃ怪しいから、俺が調べるまで口にいれずに持ってろよ。」
彼女は、背中で笑った。
「毒味すんの?そんなこと言う人初めてだわ。くまさん、何か、昔のサスペンスドラマの人みたい。」
こいつ、。だめだ。。ちびの頃の、差し出されるイチゴをそのままモグモグ疑いもせず俺の手から食べた顔がちらついた。。
何か、宇佐美には、最近笑われてばかりいる。
「俺さ、家に居なくて大丈夫?ひとみも身重だし、二人で困ってない?」
「大丈夫だよ。ひとみさんとは、すっごく仲良くしてる。一緒にパックしてドラマ見たりするよ。「男子がいないのもいーねー」って話してる。若い子と、お化粧トークしたかったって言ってた。さすが美魔女だよ。すごい、メイク上手だし、ピアノも上手。あと、熊谷のお祖母さんが時々来てる。ひとみさんの子どもは私の孫って言ってる。」
何だそれは。。
俺がいない間に、家は女の家になってるらしい。
「でも、ひとみさん、くまさんとなかなか連絡とれないって、よく文句言ってる。」
ちょっとは、寂しがってもらえてるのか。、あるいは、苦情があるのだろうか。
「時々帰るように気を付けるよ。」と、俺は言った。
「産休って形になってるけど、ひとみは復帰する気あるの?」
「分かんないよ。」
うまいことやらなくちゃならない。
宇佐美は、口数が少なくなった。何か、いつもより彼女の体温が高い気がした。
まさかと思うけど、、飲まされてたり変なもん食わされてたりしないだろうな。??宇佐美からは、慣れない化粧品の柔らかい香りがした。
家についたら、ひとみがごそごそ起きてきた。
「あらあら、一緒だったのね。。」
宇佐美は、背中で寝落ちしてしまった。
「こいつ、いつもこんなの?」俺は、ひとみに聞いた。
「優ちゃん、最近、お化粧に目覚めたみたいよ。今日は、バイトじゃなかったのね。髪の毛も可愛くしてる。」ひとみは笑った。
そういう事聞いてるんじゃないけど。。
「今日は家で寝るよ。明日、早いんだ。6時には出るよ。むこうで授業に出なきゃならない。」
「ああそう、私も、さっさと寝るわ。朝ごはんは出したげる。」と、ひとみは自分の部屋に戻った。。
宇佐美を、部屋に連れて入った。ベッドカバーが変わっていた。すっかり女の子の部屋になってる。
俺は、宇佐美を背負ったまま布団をはがし、宇佐美を背負ったままベッドの上に寝ころんだ。
寝てる人間を背中から下ろすのは難しい。本当に手がかかる。。そもそも、まだ遊ぶつもりだったのか、誰かに送らせるつもりだったのか、何のつもりなんだ。。
起こせば良いのかもしれないけど、何かためらわれた。
宇佐美の体がベッドに着地したのを確認して、俺は起き上がろうとした、、が、宇佐美をに後ろからしがみつかれた。
「宇佐美?」と、呼んでみたが、返事はない。
寝ぼけてるのか??
宇佐美の手を1つずつはがし、彼女の手から抜け出した。
振り替えると、えらく扇情的な姿があった。スカートの裾から素足がのぞいており、宇佐美はすうすうと寝息をたてていた。俺は、サンダルを脱がせて、布団をかけ、部屋を後にした。
サンダルを玄関にならべ、シャワーを浴び、部屋に戻ってパソコンを開く。メールのチェックをしていると、セキュリティシステムから、プライバシーに関する注意喚起のメッセージが表示された。
ネット上に、家族のプライバシーデータがでまわってるというやつ。
確認したら、、今日の出来事がアップされた、「リュウジ」のブログが表示された。
ネットの写真も、、ちょっと無用心な印象は受けた。
でも、これは、これでめちゃめちゃ良い写真だった。
宇佐美のこぼれ落ちそうなあどけない笑顔と、平林みやこのすらっと大人な表情が対照的だった。
この写真を撮った奴は、何か、めちゃめちゃ分かってんなあと、思った。
平林みやこは、俺のことをパソコンオタクと呼んだ。彼女のお母さんは、彼女と俺を並べたがったけど、彼女の方は、俺とは話しにくそうにしていた。学年はむこうの方が上だけど、誕生日は近くて、俺の方が体が大きかった。
(なんだ、自分も充実した大学生活送ってんじゃん。。)
疲れた。新学期から息切れがするくらいに忙しい。
下宿に戻ろうかとも思ったが、もう寝たい。
朝は強いから、大丈夫なはず。
宇佐見に、ドラッグのことを話してない。
洋治の話をするかどうかは、迷ってるけど、やめた。
でも、何らかの形で警戒心持ってもらわないと、絶対にこいつ引っかかる。
宇佐見は、つくづく無用心だ。
「くまさん、くまさん、」と、宇佐美が俺の手を後ろから引いた。宇佐美は、びっこひいてもたもたしている。。
「お前こそ、今日は、バイトはどうしたんだよ。」
「今日は、リハーサルだから休んだよ。今日は、特別だから、はめはずしちゃったの。本番は忙しくて、うちのチームは即解散なんだって。」と、宇佐美は、言った。
靴擦れだろうか。。
「宇佐美、悪いんだけど、俺、めちゃめちゃいそがしいし、早く寝たいんだ。」
俺は、宇佐美の前でかがんだ。
「さっさと乗って。」と、俺は背中をポンポンと叩いて言った。
「いいよ。ゆっくり一人で帰る。」
「こんなところに、女子、一人で残して帰れるわけないだろ。ただでさえお前、アホなのに。さっさと乗ってくれ。本当、ゆっくり歩く方がしんどいんだよ。」と、俺は、ちょっとばかりイライラ押さえながら言った。
俺は、こんなメンタル弱い人間だったっけ。。
宇佐美は、大人しく、俺におぶわれた。
えらく、軽かった。
スカートがまくれて、サンダルの素足が見えていた。こいつ、めちゃめちゃ足きれいだよな。と、ふと、いらないことを考える。けど、いらない妄想には蓋をして、さっさと帰宅すべしと、すたすた歩いた。
「くまさん、何でこっち来てたの?」
宇佐美が耳元で、眠そうに言った。
「勉強のこと。親父の知り合いと、人間科学の先生に会ってた。」
「お父さんの知り合いって、、えらい若いよね。」
「どっちのこと言ってんのか分からないけど、、時田さんて、男の方が親父の学生だった人で、女の方が人間科学の先生で、先生の研究室がこっちにあるんだよ。ちょっと用があって、遅くなったから晩ごはんしてたら、二人とも出来上がっちゃったわけ。」
「くまさん、大学生活満喫だね。。」
洋治にも言われたっけ。。
「あのさ、宇佐美、ドラッグって、毒入りの飴ちゃん流行ってるって知ってる?」
「知らない。」
「見た目普通の飴ちゃんなんだけどさ、食べると脳の神経が壊れたりするの。」
宇佐美は、疲れたのか、俺の背中に、ペッタリと頬を当てた。
「毒入りの飴ちゃんどうしたの?」
「危ないから、人に飴もらっても、口にいれるなよ。」
ちょっと間があった。
「知らない人からもらったもの口にいれないよ。」と、宇佐美は答えた。
「知り合いだからって安全とは限らないんだよ。飴くれた友だちが騙されることだってある。後で、友達が気がついたときに、お前が「まだ食べてないよ」って言ったら友達だってほっとするんだよ。だから、ちゃんと調べるまで口にいれるな。」
丸々ひとみの受け売りだ。でも、自分がこれで助かったから、言葉に力がこもる。
「調べるって、何すんの?」宇佐美は、めんどくさそうにたずねた。
「お前が調べたんじゃ怪しいから、俺が調べるまで口にいれずに持ってろよ。」
彼女は、背中で笑った。
「毒味すんの?そんなこと言う人初めてだわ。くまさん、何か、昔のサスペンスドラマの人みたい。」
こいつ、。だめだ。。ちびの頃の、差し出されるイチゴをそのままモグモグ疑いもせず俺の手から食べた顔がちらついた。。
何か、宇佐美には、最近笑われてばかりいる。
「俺さ、家に居なくて大丈夫?ひとみも身重だし、二人で困ってない?」
「大丈夫だよ。ひとみさんとは、すっごく仲良くしてる。一緒にパックしてドラマ見たりするよ。「男子がいないのもいーねー」って話してる。若い子と、お化粧トークしたかったって言ってた。さすが美魔女だよ。すごい、メイク上手だし、ピアノも上手。あと、熊谷のお祖母さんが時々来てる。ひとみさんの子どもは私の孫って言ってる。」
何だそれは。。
俺がいない間に、家は女の家になってるらしい。
「でも、ひとみさん、くまさんとなかなか連絡とれないって、よく文句言ってる。」
ちょっとは、寂しがってもらえてるのか。、あるいは、苦情があるのだろうか。
「時々帰るように気を付けるよ。」と、俺は言った。
「産休って形になってるけど、ひとみは復帰する気あるの?」
「分かんないよ。」
うまいことやらなくちゃならない。
宇佐美は、口数が少なくなった。何か、いつもより彼女の体温が高い気がした。
まさかと思うけど、、飲まされてたり変なもん食わされてたりしないだろうな。??宇佐美からは、慣れない化粧品の柔らかい香りがした。
家についたら、ひとみがごそごそ起きてきた。
「あらあら、一緒だったのね。。」
宇佐美は、背中で寝落ちしてしまった。
「こいつ、いつもこんなの?」俺は、ひとみに聞いた。
「優ちゃん、最近、お化粧に目覚めたみたいよ。今日は、バイトじゃなかったのね。髪の毛も可愛くしてる。」ひとみは笑った。
そういう事聞いてるんじゃないけど。。
「今日は家で寝るよ。明日、早いんだ。6時には出るよ。むこうで授業に出なきゃならない。」
「ああそう、私も、さっさと寝るわ。朝ごはんは出したげる。」と、ひとみは自分の部屋に戻った。。
宇佐美を、部屋に連れて入った。ベッドカバーが変わっていた。すっかり女の子の部屋になってる。
俺は、宇佐美を背負ったまま布団をはがし、宇佐美を背負ったままベッドの上に寝ころんだ。
寝てる人間を背中から下ろすのは難しい。本当に手がかかる。。そもそも、まだ遊ぶつもりだったのか、誰かに送らせるつもりだったのか、何のつもりなんだ。。
起こせば良いのかもしれないけど、何かためらわれた。
宇佐美の体がベッドに着地したのを確認して、俺は起き上がろうとした、、が、宇佐美をに後ろからしがみつかれた。
「宇佐美?」と、呼んでみたが、返事はない。
寝ぼけてるのか??
宇佐美の手を1つずつはがし、彼女の手から抜け出した。
振り替えると、えらく扇情的な姿があった。スカートの裾から素足がのぞいており、宇佐美はすうすうと寝息をたてていた。俺は、サンダルを脱がせて、布団をかけ、部屋を後にした。
サンダルを玄関にならべ、シャワーを浴び、部屋に戻ってパソコンを開く。メールのチェックをしていると、セキュリティシステムから、プライバシーに関する注意喚起のメッセージが表示された。
ネット上に、家族のプライバシーデータがでまわってるというやつ。
確認したら、、今日の出来事がアップされた、「リュウジ」のブログが表示された。
ネットの写真も、、ちょっと無用心な印象は受けた。
でも、これは、これでめちゃめちゃ良い写真だった。
宇佐美のこぼれ落ちそうなあどけない笑顔と、平林みやこのすらっと大人な表情が対照的だった。
この写真を撮った奴は、何か、めちゃめちゃ分かってんなあと、思った。
平林みやこは、俺のことをパソコンオタクと呼んだ。彼女のお母さんは、彼女と俺を並べたがったけど、彼女の方は、俺とは話しにくそうにしていた。学年はむこうの方が上だけど、誕生日は近くて、俺の方が体が大きかった。
(なんだ、自分も充実した大学生活送ってんじゃん。。)