くまさんとうさぎさんの秘密
格子模様
by 熊谷 義明

洋治は来れなかった。
あゆみと俺と二人でライブハウスに入った。
「何かさ、変な感じだよね。」あゆみは、笑った。
「ホントに。」
「昔の洋治だったら、絶対こんなの許さなかったんだろうな。風邪ひいて熱でも、自分だけ休みとかそういうのめちゃめちゃ悔しがるから。私も休むことになる。今年は、ホント、あいつにとって、何もかも我慢の年だわ。」
「あいつ、元気?」
「今日は、フォローしとかなきゃと思う。」
「洋治のとこ行くなら、一緒に行こうか?この時間に一人で出歩いちゃ危ないだろ。」
「くまさんち逆でしょ。今日は、宇佐ちゃん連れて帰らなきゃなんじゃないの。?こっちは、母ちゃんが送ってくれることになってる。父ちゃんが、洋治の親父さんと飲んでるわけ。車で迎えに行くついでだからちょうどいいんだ。晩ごはん一緒して、家族で帰ろうって。」
「了解。」
「それはそうとさ、宇佐ちゃん、あの子とは、どうなってんの??くまさん優しいし、あの子もしおらしい感じだし、高校の頃からもうできてんのかと思ってた。」
「俺さ、あいつのことは、兄妹みたいに思ってる。無邪気なままで居させてやりたいと思う。」

「はは、宇佐ちゃん、愛されてるね。」
「違うよ。いろいろあるけど、もし、それが他の奴でも同じことしたかも。」
「博愛精神なわけ?そんなわけないじゃん。」
「他にあそこまでアホなやつもいないから、結果的にめちゃめちゃ手がかかってる。俺が好きなタイプのアホさだけどさ。」

「好きなタイプのアホさねぇ。何か、上から目線だけど、気を付けた方がいいよ。くまさん、ホントに、嫌みだよ。洋治とか宇佐ちゃんとか、私のことだってバカにしてんだろうけど、私は4人の中で1番やな感じなのはくまさんだと思うわ。」

「悪かったな。」

「宇佐ちゃん、始めは苦手だったんだけどさ、女の計算高さを、勘ぐられるタイプというか。。でも、あれ、本気で何も考えてないよね。。最近、それが分かって、ちょっと好きになった。」
「そっか。多分、俺が言ってるのも同じことなんだと思う。」

演奏が始まった。
平林がえらくうまくなってた。聞き心地よい演奏だった。が、二曲目からガラッと雰囲気が変わった。

「エロいね。」と、あゆみが言った。
何か、顔が赤くなった。こっちが恥ずかしくなって、おもわず手で顔をおおった。
「あれ、宇佐美は分かっててやってんだろうか??」
「これね、洋治が好きなバンドのコピーだわ。元は昭和なおっちゃんが歌ってるんだけど、女の子が歌うと全然雰囲気変わるね。」
俺は、流行ってたことも知らなかった。
「宇佐ちゃん、ちゃんと恥ずかしそうではあるよ。」
宇佐美のソロのあと、彼女は、両手で口元を隠した。ちょっと焦ってる様子が確かにあった。

「手がかかるね。」あゆみがニヤニヤしながらこちらを見た。「やっぱ、宇佐ちゃん計算高い子かも。」あゆみは、上目遣いにこちらを見上げて、いたずらっぽく笑った。

あゆみと洋治だって、その話になると、上から目線でやな感じだ。








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