くまさんとうさぎさんの秘密
息子
by 熊谷 義明
リビングに入ると、ひとみが朝ご飯を用意していた。
「玄関も、リビングの扉も自動ドアにするよ。七月中に工事するから、予定また、連絡して。」と、俺は言った。
「何でまた?」
「ひとみも、両手ふさがった状態で家の中と外と出入りすることになるでしょ。」
ひとみは笑った。
「義明が、扉開けるのが面倒なんでしょ」
「まあ、それもあるけど、誰か妊娠したり、体壊したり、それでも一生住める家にしたいんだよね。」
「何かじじくさいわね。」
「ひとみの方が、もうちょっと先のこと考えて行動すべきでしょ。いつまで若気の至りみたいなことやってんだよ。。」
「、、、。」
「あとさ、前島さんに、俺のこと言い訳にしただろ。俺さ、前島さんはめちゃくちゃ好きなんだよ。男の友情に亀裂入れるようなことすんのやめてくれる?」俺は、言った。
もう七か月になる。はっきりとお腹のふくらみが分かる。
「前嶋さんさ、あんなだけど、男の純情じゃん。」(ひとみの方が、責任とれよ)とまでは、言えないが、前島さん、中学生というか、まだいまだに、初恋は永遠だと思ってるような節があって、気の毒になる。
ひとみは、その話になると、黙り込む。
「親父がさ、亡くなる前にさ、俺に最後に言ったことがさ、、」
ひとみがこっちを向いた。
「「義明からひとみとりあげちゃってごめんな。病人に手がかかっちゃって。」ってことだった。俺さ、「自分の奥さんに世話してもらうのに、何で俺に謝るんだよ」って言った。親父は笑ってた。」
親父は、元々、豪快に笑う人だった。
当時、ひとみは気が狂ったように親父にしがみつき、家事が終わると、親父の病院に通い詰めていた。親父が一言何か欲しいとつぶやけば、それを求めて気が狂ったようになるので、親父もだんだん相手をしてるのが辛くなってきてるように見えた。
多分、親父は、思い出に浸りたかったり、昔話をしたかっただけなのだ。ひとみと、穏やかに最後の時間を過ごしたかったかもしれない。
でも、ひとみは、親父が懐かしいと言えば、フランスからでもカナダからでも、それこそ、日本中、世界中探しまわってでも、ちょっとしたもののために駆けずり回った。多分、一緒に明日のことを考えてほしかったんだ。
親父の方は、あきらめて見えた。ひとみの方は、来るべき時に怯え、憔悴しきっているようにも見えた。
花の香りがしんどくなったと話す親父の病室には、気の利く学生さんが、ジェル製のキラキラした飾りを窓いっぱいに張り付けて帰った。花は、見舞客が帰宅した後、ひとみが持ち帰って捨てていた。
俺は学校から帰ったら一人で食事し、一人で道場に行き、一人でピアノを弾いた。さみしくないと言ったらうそになる。でも、二人には二人の時間が必要なことは分かっていた。
葬式の後は、いろんな人に言われた。
「これからは、義明君が、しっかりとお母さんを助けて頑張って。」
俺が言うのも何だけど、俺は、子どもにしては、しっかりしてる方だと思う。
まあ、俺が言いたいのは、、親父がひとみの夫だった頃だって、俺に気配りなんか、なかったってこと。今更母親ぶるなってこと。家族としてかえってみっともないから。
「篤ね、子どもはたくさんほしいって言ってた。昔。今回でさえ超高齢出産だし、これ以上のことは無理があると思うんだよね。」と、ひとみは言った。初めてまともな返事が返ってきたような気がする。
何て言葉かけていいか分からないけど、前島さんにはこっそりリークしておこう。。
「それより、義明こそよ。ここのところ、二回くらい優ちゃんかついで帰ってきたよね。」
ちょっと、顔が赤くなってしまった。
「まさかと思うけど、何もないよね。優ちゃん、一応お預かりしてる訳だから、大事にしなきゃだからね。」
「俺は、宇佐美のことは、めちゃめちゃ大事にしてるよ。多分、俺より本人に説教した方がいいよ。人のあしらいがうまいわけでもないのに、何の警戒心もなく好きなようにうろうろしてるから。ホントやばいよ。一回目は前嶋さんとこの向かいのカラオケの前で拾って帰ってきて、確か、靴擦れしてておぶってるうちに寝落ち。2回目は、ライブハウスの裏口に迎えに行ったんだよ。酔っ払いに絡まれて、逃げ帰ってバスの中で寝落ち。」
「確かに落ち着かない感じね、、、。まあ、義明は義明でカマトトだから、どこまでホントか私には分からないけど。」
「ひどすぎるだろ。あいつといて、何もいい思いしたことないよ。大変だったんだって。」
「はいはい。。」
「何も信じてないよね、自分の息子。。」
「女の友情は、男にちゃちゃ入れられたくらいじゃ揺らがないからね。」
「まあ、いいよ。あと、免許取るから、車庫整理しといてよ。もう一台車買うから。」
その時、宇佐美が入ってきた。
「おはよう。。昨日は、ごめん。」と、宇佐美は上目遣いに言った。
「気にしなくていいよ。でも、今後どうなったか、また、教えて。」
「それは、、自分の中で結論出てからでいいかな??」
「了解。あと、朝ご飯ちゃんと食べろよ。俺、宇佐美が飯食ってるとこ見るの好きなんだよ。」
ひとみがため息をつき、宇佐美はおとなしく席についた。
「義明さ、あなた、頭は良いし、効率も良いし、言ってることの字ずらは正しいけど、でも、もうちょっと相手が何を考えてるのか、気にした方が良いよ。人の心だけは、思い通りにはならないからね。何か始める前に、ちゃんと人の心がついてきてるか、一つ一つ考えないと、すっごく強引に見えるのは、母親の私だけ??」
ひとみはため息をついて、宇佐美はおとなしく席に着いた。
「俺、EIテスト受けたけど、スコアは高かったよ。ひとみがいろいろ言うから、客観的に自分を見つめ直してみたんだ。」
「ごめん。義明、何いってるか分からないわ。。」
ひとみは、もう一度ため息をついた。
「優那ちゃん、母親の私が言うのも何だけど、義明は、優しい子ではあるの。ただし、ちょっと自分と他人の違いみたいなものに疎いところがあるから、何かやめてほしい事や、やってほしい事があったら、はっきり言ってやって。」
「はい。」
「本人は、良かれと思ってやってるんだろうけど、発想が突飛すぎたり、何かとんでもないことになる時があるのね。」
女子に言わせると、そういうことになるわけか。。
まあ、宇佐美はもう少しはっきり話した方が良いということには共感できるから、何も言わないことにした。
リビングに入ると、ひとみが朝ご飯を用意していた。
「玄関も、リビングの扉も自動ドアにするよ。七月中に工事するから、予定また、連絡して。」と、俺は言った。
「何でまた?」
「ひとみも、両手ふさがった状態で家の中と外と出入りすることになるでしょ。」
ひとみは笑った。
「義明が、扉開けるのが面倒なんでしょ」
「まあ、それもあるけど、誰か妊娠したり、体壊したり、それでも一生住める家にしたいんだよね。」
「何かじじくさいわね。」
「ひとみの方が、もうちょっと先のこと考えて行動すべきでしょ。いつまで若気の至りみたいなことやってんだよ。。」
「、、、。」
「あとさ、前島さんに、俺のこと言い訳にしただろ。俺さ、前島さんはめちゃくちゃ好きなんだよ。男の友情に亀裂入れるようなことすんのやめてくれる?」俺は、言った。
もう七か月になる。はっきりとお腹のふくらみが分かる。
「前嶋さんさ、あんなだけど、男の純情じゃん。」(ひとみの方が、責任とれよ)とまでは、言えないが、前島さん、中学生というか、まだいまだに、初恋は永遠だと思ってるような節があって、気の毒になる。
ひとみは、その話になると、黙り込む。
「親父がさ、亡くなる前にさ、俺に最後に言ったことがさ、、」
ひとみがこっちを向いた。
「「義明からひとみとりあげちゃってごめんな。病人に手がかかっちゃって。」ってことだった。俺さ、「自分の奥さんに世話してもらうのに、何で俺に謝るんだよ」って言った。親父は笑ってた。」
親父は、元々、豪快に笑う人だった。
当時、ひとみは気が狂ったように親父にしがみつき、家事が終わると、親父の病院に通い詰めていた。親父が一言何か欲しいとつぶやけば、それを求めて気が狂ったようになるので、親父もだんだん相手をしてるのが辛くなってきてるように見えた。
多分、親父は、思い出に浸りたかったり、昔話をしたかっただけなのだ。ひとみと、穏やかに最後の時間を過ごしたかったかもしれない。
でも、ひとみは、親父が懐かしいと言えば、フランスからでもカナダからでも、それこそ、日本中、世界中探しまわってでも、ちょっとしたもののために駆けずり回った。多分、一緒に明日のことを考えてほしかったんだ。
親父の方は、あきらめて見えた。ひとみの方は、来るべき時に怯え、憔悴しきっているようにも見えた。
花の香りがしんどくなったと話す親父の病室には、気の利く学生さんが、ジェル製のキラキラした飾りを窓いっぱいに張り付けて帰った。花は、見舞客が帰宅した後、ひとみが持ち帰って捨てていた。
俺は学校から帰ったら一人で食事し、一人で道場に行き、一人でピアノを弾いた。さみしくないと言ったらうそになる。でも、二人には二人の時間が必要なことは分かっていた。
葬式の後は、いろんな人に言われた。
「これからは、義明君が、しっかりとお母さんを助けて頑張って。」
俺が言うのも何だけど、俺は、子どもにしては、しっかりしてる方だと思う。
まあ、俺が言いたいのは、、親父がひとみの夫だった頃だって、俺に気配りなんか、なかったってこと。今更母親ぶるなってこと。家族としてかえってみっともないから。
「篤ね、子どもはたくさんほしいって言ってた。昔。今回でさえ超高齢出産だし、これ以上のことは無理があると思うんだよね。」と、ひとみは言った。初めてまともな返事が返ってきたような気がする。
何て言葉かけていいか分からないけど、前島さんにはこっそりリークしておこう。。
「それより、義明こそよ。ここのところ、二回くらい優ちゃんかついで帰ってきたよね。」
ちょっと、顔が赤くなってしまった。
「まさかと思うけど、何もないよね。優ちゃん、一応お預かりしてる訳だから、大事にしなきゃだからね。」
「俺は、宇佐美のことは、めちゃめちゃ大事にしてるよ。多分、俺より本人に説教した方がいいよ。人のあしらいがうまいわけでもないのに、何の警戒心もなく好きなようにうろうろしてるから。ホントやばいよ。一回目は前嶋さんとこの向かいのカラオケの前で拾って帰ってきて、確か、靴擦れしてておぶってるうちに寝落ち。2回目は、ライブハウスの裏口に迎えに行ったんだよ。酔っ払いに絡まれて、逃げ帰ってバスの中で寝落ち。」
「確かに落ち着かない感じね、、、。まあ、義明は義明でカマトトだから、どこまでホントか私には分からないけど。」
「ひどすぎるだろ。あいつといて、何もいい思いしたことないよ。大変だったんだって。」
「はいはい。。」
「何も信じてないよね、自分の息子。。」
「女の友情は、男にちゃちゃ入れられたくらいじゃ揺らがないからね。」
「まあ、いいよ。あと、免許取るから、車庫整理しといてよ。もう一台車買うから。」
その時、宇佐美が入ってきた。
「おはよう。。昨日は、ごめん。」と、宇佐美は上目遣いに言った。
「気にしなくていいよ。でも、今後どうなったか、また、教えて。」
「それは、、自分の中で結論出てからでいいかな??」
「了解。あと、朝ご飯ちゃんと食べろよ。俺、宇佐美が飯食ってるとこ見るの好きなんだよ。」
ひとみがため息をつき、宇佐美はおとなしく席についた。
「義明さ、あなた、頭は良いし、効率も良いし、言ってることの字ずらは正しいけど、でも、もうちょっと相手が何を考えてるのか、気にした方が良いよ。人の心だけは、思い通りにはならないからね。何か始める前に、ちゃんと人の心がついてきてるか、一つ一つ考えないと、すっごく強引に見えるのは、母親の私だけ??」
ひとみはため息をついて、宇佐美はおとなしく席に着いた。
「俺、EIテスト受けたけど、スコアは高かったよ。ひとみがいろいろ言うから、客観的に自分を見つめ直してみたんだ。」
「ごめん。義明、何いってるか分からないわ。。」
ひとみは、もう一度ため息をついた。
「優那ちゃん、母親の私が言うのも何だけど、義明は、優しい子ではあるの。ただし、ちょっと自分と他人の違いみたいなものに疎いところがあるから、何かやめてほしい事や、やってほしい事があったら、はっきり言ってやって。」
「はい。」
「本人は、良かれと思ってやってるんだろうけど、発想が突飛すぎたり、何かとんでもないことになる時があるのね。」
女子に言わせると、そういうことになるわけか。。
まあ、宇佐美はもう少しはっきり話した方が良いということには共感できるから、何も言わないことにした。