くまさんとうさぎさんの秘密
盆踊り
by熊谷 義明
お盆の熊谷家には、人が集まっていた。
今日は、熊谷のおばあさんも来てたし、洋治とあゆみもいた。洋治は、八代さんが一緒ということが条件で、夜間の外出が許された。だから、八代さんも来ていた。
洋治は、外を怖がっていたから、羽目をはずす心配はないと思う。
今日は、熊谷のおばあさんが、浴衣の着付けを教えてくれるというので、女子も集まった。平林みやこも来ていた。
女子がぞろぞろとおばあさんが使っている客間に移動した後、「義明、俺さ、地元は受けないことにした。」と、洋治は言った。
「そっか、、。何かそんな気はしてた。」
そうかなあとは思ってた。
「しばらくは、遠距離恋愛。そんな事絶対に無理と思ってたけど、今は大丈夫なんじゃないかって気がしてる。」
「何か、洋治がちょっとだけオトナに見える。」
「俺たち、発展途上だよな。でも、四年後、俺、どうしてんだろう。四年前の自分と、今の自分で、考え方が変わっちゃうことと、変わらないことと、あるとは思うけどさ。」
「さあな。まあさ、大学って休み多いし長いんだよ。俺も、思ってた以上に家にいるよ。あゆみにも、意外とちょこちょこ会えるかもよ。」
さて、と、立ち上がった。
「俺も浴衣に着替えてくるわ。」と、俺は言った。
「おばあさんとこ、今女子がみんな着替え中だろ。」
「アホ。俺は自分で着れんだよ。ひとみが浴衣風通してくれてたから、ひとみの部屋に行ってくる。」と、俺は言った。
和服は好きだ。親父もよく着てた。
いろいろあって、和ダンスは、ひとみの部屋から続いているウォークインクローゼットの中にある。
ひとみの部屋に入ると、衣紋掛けに、二枚浴衣がかけてあった。
そう言えば、親父が袖を通せずに亡くなった浴衣があると聞いていた。ひとみは、和服の手入れが好きだ。
入院する何日か前に、ひとみは、嬉々として浴衣の準備をしていた。
「ちょっと色褪せてるけど、何年か前に一回洗ってるのよ。あんたが高校生になったら、着れるかと思ったんだけど、やっぱり大きくて。お父さん、本当に大きかったよね。あらら、男物の反物もあるわ。これは、わりと良いものだよ。時間もらえるなら、仕立ててあげようか。よその人にはあげれないもの。」
今、部屋は空っぽで、俺の心の中にも、ちょっとしたすきま風が吹いていた。
ひとみは、、いつまで親父の恋人やるつもりなんだと思ってたけど、いざ、いるはずの場所からいなくなると、不安な心持ちになる。。
みんな、安静にしてれば大丈夫と言うけれど、、本当に大丈夫なんだろうか。。
俺は、親父のお古の浴衣に袖を通した。くるくると帯を巻いて、キュッとしめる。胸元をピッと整えて、、丈が少し長いくらいだけど、下駄をはいたら丁度良いかな?
「緊急事態」と、俺は言った。ひとみの部屋の扉が開く。
名前を呼んだり、挨拶した程度で開いたら、やりづらいだろうと思って、ひとみの部屋に、宇佐美や俺が入るときの音声認証は、「緊急事態」にした。
ひとみが入院とか、本当に緊急事態だ。うまくやらなきゃだ。
「そろそろ行こうか。」と、俺はみんなに声をかけた。
女の子たちは、みんな可愛く着付けて、髪を結っていた。
「義明かっちょいーな。俺も来年は着ようかな。」
「昔は、俺だけ浮いてると思ってたけど、着てるやつ増えたよな。」と、俺は、言った。
子どもの頃は、昼間にチビッ子の発表会みたいなのがあって、道場のそろいのTシャツとかがあるから、あまり浴衣の人はいなかった。俺だけが、ひとみの手縫いの浴衣を着ていた時があった。正直、嫌だと思ったこともあるけれど、それを誰かに言ったことはない。
きっと、毎年、この季節になれば、ずっと、ひとみと親父の事を思い出すだろう。
おばあさんが、にこにこしながら言った。
「女の子がいるって良いわね。お母様方が羨ましいわ。」
「ばあちゃんも、一緒に行こう。今日は本当にありがとう。最近、なかなか会えなかったよな。」と、俺は言った。
ところがだ。おばあさんは、涼しげな顔で言った。
「私ね。今日は、婚約した方とご一緒させていただく予定があるのよ。」
その場にいた全員が振り返った。
「婚約って??おばあさん、、相手誰?」
「折を見て紹介するわ。」
おばあさんは、涼しげな顔をしている。
「私がかたずかないと、ひとみさんも踏ん切りがつかないんじゃないかと思って。。」
おばあさんは、涼しげな顔をして、手をふった。
「それでは、時間ですので、お先に失礼しますよ。」
さっそうと立ち去るおばあさんを、みんなで見送った。。
お盆の熊谷家には、人が集まっていた。
今日は、熊谷のおばあさんも来てたし、洋治とあゆみもいた。洋治は、八代さんが一緒ということが条件で、夜間の外出が許された。だから、八代さんも来ていた。
洋治は、外を怖がっていたから、羽目をはずす心配はないと思う。
今日は、熊谷のおばあさんが、浴衣の着付けを教えてくれるというので、女子も集まった。平林みやこも来ていた。
女子がぞろぞろとおばあさんが使っている客間に移動した後、「義明、俺さ、地元は受けないことにした。」と、洋治は言った。
「そっか、、。何かそんな気はしてた。」
そうかなあとは思ってた。
「しばらくは、遠距離恋愛。そんな事絶対に無理と思ってたけど、今は大丈夫なんじゃないかって気がしてる。」
「何か、洋治がちょっとだけオトナに見える。」
「俺たち、発展途上だよな。でも、四年後、俺、どうしてんだろう。四年前の自分と、今の自分で、考え方が変わっちゃうことと、変わらないことと、あるとは思うけどさ。」
「さあな。まあさ、大学って休み多いし長いんだよ。俺も、思ってた以上に家にいるよ。あゆみにも、意外とちょこちょこ会えるかもよ。」
さて、と、立ち上がった。
「俺も浴衣に着替えてくるわ。」と、俺は言った。
「おばあさんとこ、今女子がみんな着替え中だろ。」
「アホ。俺は自分で着れんだよ。ひとみが浴衣風通してくれてたから、ひとみの部屋に行ってくる。」と、俺は言った。
和服は好きだ。親父もよく着てた。
いろいろあって、和ダンスは、ひとみの部屋から続いているウォークインクローゼットの中にある。
ひとみの部屋に入ると、衣紋掛けに、二枚浴衣がかけてあった。
そう言えば、親父が袖を通せずに亡くなった浴衣があると聞いていた。ひとみは、和服の手入れが好きだ。
入院する何日か前に、ひとみは、嬉々として浴衣の準備をしていた。
「ちょっと色褪せてるけど、何年か前に一回洗ってるのよ。あんたが高校生になったら、着れるかと思ったんだけど、やっぱり大きくて。お父さん、本当に大きかったよね。あらら、男物の反物もあるわ。これは、わりと良いものだよ。時間もらえるなら、仕立ててあげようか。よその人にはあげれないもの。」
今、部屋は空っぽで、俺の心の中にも、ちょっとしたすきま風が吹いていた。
ひとみは、、いつまで親父の恋人やるつもりなんだと思ってたけど、いざ、いるはずの場所からいなくなると、不安な心持ちになる。。
みんな、安静にしてれば大丈夫と言うけれど、、本当に大丈夫なんだろうか。。
俺は、親父のお古の浴衣に袖を通した。くるくると帯を巻いて、キュッとしめる。胸元をピッと整えて、、丈が少し長いくらいだけど、下駄をはいたら丁度良いかな?
「緊急事態」と、俺は言った。ひとみの部屋の扉が開く。
名前を呼んだり、挨拶した程度で開いたら、やりづらいだろうと思って、ひとみの部屋に、宇佐美や俺が入るときの音声認証は、「緊急事態」にした。
ひとみが入院とか、本当に緊急事態だ。うまくやらなきゃだ。
「そろそろ行こうか。」と、俺はみんなに声をかけた。
女の子たちは、みんな可愛く着付けて、髪を結っていた。
「義明かっちょいーな。俺も来年は着ようかな。」
「昔は、俺だけ浮いてると思ってたけど、着てるやつ増えたよな。」と、俺は、言った。
子どもの頃は、昼間にチビッ子の発表会みたいなのがあって、道場のそろいのTシャツとかがあるから、あまり浴衣の人はいなかった。俺だけが、ひとみの手縫いの浴衣を着ていた時があった。正直、嫌だと思ったこともあるけれど、それを誰かに言ったことはない。
きっと、毎年、この季節になれば、ずっと、ひとみと親父の事を思い出すだろう。
おばあさんが、にこにこしながら言った。
「女の子がいるって良いわね。お母様方が羨ましいわ。」
「ばあちゃんも、一緒に行こう。今日は本当にありがとう。最近、なかなか会えなかったよな。」と、俺は言った。
ところがだ。おばあさんは、涼しげな顔で言った。
「私ね。今日は、婚約した方とご一緒させていただく予定があるのよ。」
その場にいた全員が振り返った。
「婚約って??おばあさん、、相手誰?」
「折を見て紹介するわ。」
おばあさんは、涼しげな顔をしている。
「私がかたずかないと、ひとみさんも踏ん切りがつかないんじゃないかと思って。。」
おばあさんは、涼しげな顔をして、手をふった。
「それでは、時間ですので、お先に失礼しますよ。」
さっそうと立ち去るおばあさんを、みんなで見送った。。