悔しい想い


 先日行われた新商品のプレゼンだって、同期で残ったのは私と大沢だった。

 最終的な一対一の戦いに敗れた理由がなんなのか。私の発案した商品に、何かしらの魅力が足りなかったのか……。いや、プレゼン能力が劣っていたからか?
 まさか、女だからという理由なら、納得がいかない。

 私はなるべくその考えを捨て、初めの二点に改善点を見出そうとした。
 そんな私に向かって、大沢は偉そうな態度をとった。

「まー、次回も頑張れよ」

 満面の笑みでタンタンと肩を叩かれた私が、どれほど悔しい思いに駆られたことか。
 その後、数歩通り過ぎてから振り返った大沢からは、いつものセリフだ。

「市原は、一生俺には敵わない」

 ククッという笑い声を残し、大沢は私のそばを離れていった。

 くっ、悔しい。本当に悔しいっ……。
 あの得意げな顔、いつか歪めてやりたい。

 私は、けしてSではない……はず。けれど、大沢に対してだけは、どうにもそういった感情を抑え込むことができない。 やつの対抗意識全開の態度は、日々の精神衛生上、私にとって悪影響でしかないからだ。
 なんとかやり込めたい。この悔しい気持ちを晴れやかなものにしたい。

 私はあいつに、何でなら勝てるのだろう。

 身長?
 視力?
 資料作りの完璧さ?
 商品の発案力?

 最初の二点は、子供みたいだから却下だ。いや、そもそも。男の大沢に身長で勝ったところで、嬉しくもなんともない。私の性格上、大沢よりも身長が高くなってしまったら、さらに可愛げがなくなってしまうだろう……。
 いくら勝気な性格の私だからとはいえ、更に可愛げないレベルが上がってしまうのは、できるなら避けたい事案だ。

 視力だって、良いに越したことはないけれど。コンタクトをせず、時折かけている自身のメガネ姿は嫌いじゃない。鏡に映る、右斜めの角度がいい感じだと……。
 んんっ……。まぁ、それはいいとして……。

 資料は、いける気がする!
 この点に関して言えば、作成し上司に提出するたびに、とても分かりやすいと定評があるからだ。
 ふんっ。どうだ、大沢。私にだって、お前に勝るものがあるのだ。
 私は大沢に勝てるものを見つけたことで、鼻の穴を膨らませ、腕を組みイキっていた。

 いや……、しかし、待てよ。まさか、同じセリフをあの大沢も言われている……なんてことはないだろうか……。
 褒めて伸ばすタイプの上司のことだから、あり得なくはない……。となると、私の資料が格別に優れていると言うわけではないのかもしれない……。

 考えたら、落ち込むな……。

 いや、凹んでいる場合ではない。次だ、次!

 商品発案は、どうだ……。
 あれなら勝てそうじゃないか?
 ……いや、つい先日プレゼンで負けたばかりじゃないか……。

 あぁっ、もおっ。どうしたら、私は大沢に勝てるのだろう。

 大沢には、何もかもを持っていかれている気がしてならない。どうすれば、私がやつに対して顎を突き出し、フンっとほくそ笑む日がやってくるのだろう。


< 2 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop