まるで鏡を見ているように


 目を逸らした先には、私と似たような人だかりができていた。でもあっちは女の人の群れで、遠回しに視線を絡めてくるこっちと違って、もっと積極的だった。

 中心にいるのはどんな人なんだろう。


 そんな興味で、人だかりに目を凝らす。


 頭一つ分出た、男の子。背は高いけど、何故だか大学生にしては幼い印象がする。笑顔を張り付けてはいるけど、その横顔は困っているように見えた。


「――すみません。少しいいですか?」


 話を切り上げる示唆をして、相手は名残惜しそうに手を引いた。


 もう一度、人だかりに目を向ける。


 目が合った。


 お互いに同じ状況であることを確認する。目的の一致。

 彼は周りの人と少し話をした後、こっちに歩いてきた。
 目の前にきて、止まる。不思議と私たちの間に人はいなかった。


「こんばんは。初めまして」
「こんばんは」
「突然ですが、一緒に食べませんか?」
「いいですね。では、落ち着いて食べられるところに移動しませんか?」
「賛成です」


 必要以上に敬語なのは周りの人に聞かせるため。
 それを二人で承知したうえで、少し皮肉を混ぜつつ笑顔で会話する。


 周りの人はその皮肉を感じ取ったらしく、みんな気まずそうに散っていく。


 私たちは顔を見合わせた。なんだかおかしくなって、二人同時にクスッと笑う。


「はい」


 自然に差し出された手を取って、私たちはテーブルに移動した。

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