転生令嬢の異世界ほっこり温泉物語
バタンと扉を閉め、ライの視界が途切れると、私は後悔でいっぱいになり項垂れた。

私の最後の台詞。我ながら酷いと思う。

カミラさんの所に行くように言いながら、そこはかとなくいじけてる雰囲気が醸し出されていて。

ああ、自分が恥ずかしい。
ライにも拗ねているって思われたかもしれない。



がっくりしていると、コンラードに声をかけられた。

「お嬢様、お座りになったらいかがですか」

「……ええ」

言われた通り、部屋の中央ソファーに行き腰をかける。

「浮かない顔ですね」

「うん、上手くいかない事が多いから?」

「おや? ミント村リゾートの運営はこれ以上ない程順調ですが?」

コンラードが片眉を上げて言う。

「まあそっちはね」

問題は私自身の気持だから。

どんよりした気持ちのままでいると、コンラードがずばりと言った。

「ライの事ですか?」

「えっ?」

つい、過剰に反応してしまう。
そうだ、と言ってるも同然の反応にコンラードは納得の表情で言う。

「お嬢様の不安も理解出来ます。ライはいつの間にかミント村になくてはならない存在となりましたが、もういつ旅立ってもおかしくない状態ですからね」

その発言に、私の心臓がドキリと跳ねる。一気に体の熱が奪われたように寒くなった。

「……ライはもう旅をするだけのお金が貯まったの?」

「ええ。とっくにあるでしょう。無駄遣いもしていないようだし、働きに応じて賃金も上げていますから」

「そう……」

ライがいなくなってしまう。

とうとう現実味を帯びて来たその事実に、息苦しさを感じる。

「ライがいなくなった穴を埋めるのはなかなかに、大変でしょうね。かと言って引き留める事も難しい。彼は故郷のフォーセル大公国では高い地位についているはずですし、いつまでもこの小さな村にいるような人間ではないのですから」

「高い地位?…やっぱりそうなの? ライは自分の事を貴族ではないと言っていたけれど」

それは私も以前から感じていたこと。

コンラードは迷いなく頷いた。

「本人に詳しく聞いた事はありませんが、間違いないでしょう。何気ない会話である程度の予想はつきますし、仕事ぶりを見ていれば分かります。彼の判断力、決断力、人の使い方。どれも十分な知識と経験を持っている証拠ですね」

「そう。コンラードまでそう言うなら間違いないわ。それにライには精霊の加護があるし、貴族じゃないにしても、特別な立場だったのでしょうね」

「フォーセル大公国もトレヴィア国と同じで、貴族が政治の中枢を担っています。現大公は先代の大公閣下の弟君ですが、とても柔軟な考えの方で、優秀者は貴族でなくても取り立てるとか。ライもそうして引き立てられたひとりかもしれません」

「だったら、フォーセル国ではライの帰りを待っているでしょうね」

胸がずきずきと痛くなる。

フォーセル大公国での将来有望な地位と、ミント村リゾートの主要メンバー。

比べる事も出来ない程、その立場には差がある。


ライにとってもは、一亥も早くここを出たほうがいいに決まっている。

カミラさんとも何かあるようだし、私は早くライを諦めなくては。


そして、笑顔で今までの感謝を伝え、送り出せるようにしなくては。


でも、それはとても難しい事に感じた。
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