転生令嬢の異世界ほっこり温泉物語
「……ランカ村にはどうして井戸がないの?」
「固い地盤で、掘ることが出来ないからです」
「そう……」
私が水源を探せば水不足も解決するかと考えたけど、それは無理そうだ。
「雨が降ればいいのだけどね」
窓の外に目を向ければ、広がる青空。
雨雲なんてひとつもない。
当分降りそうもないなと思っていると、それまで黙っていたライがコンラードに話しかけた。
「……あの、意見を言っても?」
「ええ、何か気になることでも?」
コンラードは、私からライに視線を移す。
「先程会った村人達は、領主であるクレッグ子爵家を敬うどころか、恨みを持っているように見えました。最近起きた水不足だけが原因とは思えない。他にも要因があるのではないかと思います」
ライは迷いなく堂々と発言する。
コンラードは驚いたような顔をして、それから口角を上げて笑った。
「ライは随分と鋭いですね。お嬢様が無事だった事から護衛としての腕も確かなようですし、当家への奉公が期間限定なのが惜しいです」
コンラードがここまで言うのは珍しい。
妙に嬉しそうな顔で私に言う。
「お嬢様、良い方を連れて来ましたね」
「え? そうね、確かにライはただの使用人とは思えないわ。それでどうなの? ライの言う通り、あの人達の態度が悪かったのは他にも理由があるの?」
コンラードに同意しつつも追求すると、彼は笑顔を消し神妙な表情で頷いた。
「はい。但しランカ村の問題と言うより、地域的な問題になります」
「どういう事?」
「ランカ村をはじめ、近隣の集落は貧困に苦しんでいます。住民のほぼ全員が農業で生活の糧を得ています。その為天候が悪く作物が取れないと生活が立ち行かなくなるのです。ここ数年、雨量が減り、川の水量も減った為、不作が続いています」
「貧困って、このミント村も?」
「はい。なかなか厳しい状況です」