転生令嬢の異世界ほっこり温泉物語
口にすると、改めて良い思いつきだと実感して嬉しくなる。

皆は私のテンションに付いて来れないようで、戸惑っているけれど。

しばらくすると、ライが口を開いた。

「ここに人を集めて、お金を払わせるって事か?」

「そうよ。この近辺はトレヴイア王都からサウラン辺境伯領やフォーセル大公国に行く通り道でしょう? 休憩場所が有れば利用すると思うのよ」

張り切ってそう言えば、コンラードが渋い顔をした。

「確かに通り道ですが、宿屋を建てたところで、人が集まるかどうかは分かりません。荷運びの者は野営しますし、宿屋に泊まるような方は、コーラル村の宿を利用するでしょうから」

コーラル村とはこの辺りの集落では一番大きく栄えている村だ。
私は利用した事が無いけれど、立派な宿があると聞く。

「分かってるわ。ミント村の使ってない民家を改造した程度の宿屋では誰も来てくれないでしょうね。だから付加価値を付けるのよ」

「付加価値ですか? しかしこの村には……」

何も無い。
皆がそう言いたい気持ちはよく分かる。
私も初めて来た時そう思ったから。
だけど今は違う。

「ここには温泉があるのよ。疲れた旅人が身体を癒すのに最適だと思わない?」

「温泉って綺麗になるお湯の事ですよね? 旅人じゃなくても集まりそうです」

ラナは疲労回復より、美容効果が気になるようだ。

「その辺の効果はもう少し研究する必要があるわ。でも綺麗になるって証明されたらそれ目当てで人が来そうね」

どの国でも女性の美への執着は凄いもの。

「あのお湯は確かに疲れが取れるけど、野ざらしのままでは人が来ない。目隠しになるような建物を建てられるのか?」

今度はライが発言する。

「村にはお金が無いから私の私財を使うしかないわ。それだって大したものではないから、安く目隠しを作る方法を探さないとね」

「……分かった。俺も考えてみます」

「ほんと? ありがとう」

サウラン辺境伯領で学んでいたライが考えてくれるのは心強い。

それにしても忙しくなりそうだ。
だけど、楽しい。

この何の変哲も無い田舎の村が、人気リゾート地に変身すると考えるとワクワクする。

期待に胸を膨らませていると、「お嬢様、私にも温泉について説明頂けないでしょうか」とすっかり話題から置いていかれたコンラードの声がした。


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