短編:恋の残り香
「あのさ…」


先に口を開いたのは健司だった。

お膳立てされた事とは言えチャンスには違いない。


「暇だったらさ、これからどっか行かねぇ?」


心臓が飛び出てきそうな程の緊張感で喉がカラカラになっていた。

美加は俯いたままで頷いた。



二人でファーストフード店に入り、窓際の席に向かい合い腰を下ろした。

暖房のきいた店内。

暖かさに美加はホッとしていた。

長い時間外にいたため、足も手も顔も、全てが氷の様に冷たくなっている。

ホットコーヒーを互いに注文し、再び席につく。

照れ臭さと気恥ずかしさで沈黙が続いていた。

勢いで誘ったはいいが、健司はこれからどうするかまでは考えていなかったし、美加もついて来たはいいがどうしたらいいか分からなかった。


「何か変な感じだよな」


健司が照れながらもそう言うと、美加はクスッと笑いながら頷いた。

熱いコーヒーが冷えた体にじんわりと染み込んでいく。

それと同じように二人の間にも優しい時間が流れていた。
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