短編:恋の残り香
健司は足しげく病院に通った。

どんなに詫びても償いきれない怪我を負わせた負い目から。

しかし、相手の女性、香澄は違っていた。

事故の経緯を聞いていたので、健司を責める気は全くなかったのだ。

入院の退屈さから、健司に会う事だけが楽しみになり、次第に惹かれていった。

健司に彼女がいる事など知らずに。

香澄の気持ちを察した両親が健司に話を持ち掛けたのは、事故から半年以上経った頃だった。


「娘と結婚してやってくれないか?
香澄はあんな体になってしまった。
こんな言い方をしたら君を追い詰める事は分かってる…
でも、あんな体になった娘だからこそ、幸せになって欲しいんだ」


健司は何も言えなかった。

香澄の片足は一生不自由なままだ。

その上、肩から背中にかけて大きな傷痕が残る。

自分のせいで…

美加の顔が脳裏に浮かぶ。

美加を泣かせたくはない。

美加と別れたくない。

そう叫びたい程思っていた。
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