短編:恋の残り香
家に戻ると決めたのは、噂で健司の結婚が決まった事を聞いたのがきっかけだった。

どんなに待ってももうどうしようもない。

そう思い知った時、一人が急に怖くなった。

実家に戻ることを両親は手放しで喜んでくれた。

その優しさが嬉しかった。



部屋の中を暗闇が支配していた。

ゾクゾクと孤独が襲う。

美加は写真をクローゼットにしまった。

健司の思い出は全て置いていく、そう決めたのだ。

ゆっくりと立ち上がり部屋を見渡した。

健司と過ごした頃の記憶が色鮮やかに蘇り、涙が溢れた。

静かにドアを開け、部屋を後にした。


健司への想いはきっと消えないだろう。

次の恋が出来るのか、先の事は分からない。

これは逃げ出すだけの行為かもしれない。

それでも私は前に進まなくてはいけない。

愛してくれる両親の為

手を差し延べてくれる友人の為

自分の為

そして何よりも、私を愛してくれた健司の為に

今度出会えた時に誇れる私になりたい


健司、愛してる…
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