短編:恋の残り香
重なった偶然で何となく美加に興味を持ちはじめた健司は、以来何かと美加に話しかけるようになった。

しかし美加は健司を嫌っていたので、声をかけられるのが苦痛だった。



ある日、美加はクラブで帰りがすっかり遅くなった。

美術部に所属していたのだが、展覧会に出す作品の提出期限が迫っていたのだ。

運が悪い事に雨まで降り出していて、昇降口でどうしたものかと空を見上げていた。

走って帰るには強すぎる雨。

見渡す限り傘を持った知り合いはいそうになかった。


「…はぁ…ついてないな…」


そう呟いた時、肩をぽんと叩かれた。

振り返ると頬に誰かの指がぷにっと刺さった。


「引っ掛かった~」


子供のように無邪気に笑う健司がいた。

美加はムスッとしてそっぽを向いた。


「悪ぃ悪ぃ。
怒んなって、な」


健司は美加の顔を覗き込むようにしながらヘラヘラと謝っていたが、その態度が尚更許せない。

顔を背けながら健司から距離を置くと、健司は大袈裟に溜息をついた。
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