君がいて、僕がいる。
すべてを終わらせるとき
「……じゃあ俺、用あるからもう行くわ」
圭介はそう言って、足を進めた。
一歩一歩私から離れていく。
もう、それを追いかけることも止めることもできない。
ついていかない私を呼ぶ圭介もいなくて
ただただこの滲んだ現実が過ぎていくのを見つめるしかなかった。
「……たぶん、もう会うことないけど」
だけど、その足はドアの前で一度止まった。
その顔を見せることはなかったけど…それでも、声が私へと届けられる、最後の時間。
「もし今後、どこかで俺を見かけたり誰かと俺の話をすることがあったら
俺のことを”先輩”って呼ぶのはやめて」
「えっ…な。なんで…?」
「……俺は後悔してないから。真希と付き合ったこと。
結局傷つけちゃったけど、それでも後悔してないから。
……だから、時間戻して俺との時間をなかったかのように前に戻ったりしないで。
先輩後輩に戻るんじゃなくて、俺たちは元カレ元カノになる。
だから、前に戻ったりしないで」
元カレ、元カノになる
その現実が私の胸をまた切り裂く。
この痛みに耐えることはなかなかできなくて、泪は止まることをしらない。
「……わ、かっ…た」
それでも、必死に私は圭介に言葉を贈る。
本当にこれが最後かもしれないから
ちゃんと、私の声を届けたかった。
そんなうまく出ない私の言葉に、圭介は振り返って私にあの優しい笑顔を見せた。
「……ありがとね」
そういって私を見つめる。
『ありがとう』
そう私も伝えよう、と口を開いた、けど
「……っ。」
私の口はなんの言葉も出ることなく閉じられた。
もしそれを言ってしまったら本当に最後な気がして
……もしその言葉の返事を私がしなかったら、またいつかどこかで受け取ってくれるかもしれないから
そう考えたら、私はなにも言うことができなかった。
「……じゃあね」
結局、なにも伝えられないまま圭介はドアの向こう側へと行ってしまった。