君がいて、僕がいる。
それからは、もうどうなったかなんてわからない。
気づけば、私は圭介の病室の前に置かれた椅子に座っていた。
「真希…、お前も病室に戻ろう」
「お父さん…
あれ…、将希は…?」
そして、私の横にはお父さんが立っていた。
「え…?
将希なら、さっき警察の人と一緒に行ったじゃないか…」
あれ…?そう、だった…?
もう、わかんない。
なにもかもわかんない。
「……真希、病室へ戻ろう。
真希もまだ無理しちゃいけないんだ」
「……圭介は、まだ…?」
「……あぁ」
…そっか、まだなのか…
もう、今が何時なのか
ここにどうやってきて、どのくらいいるのか
なにもかもがわからない。
でも、後ろを見上げればやっぱりここは”神谷圭介”の病室前だ。
やっぱり、それだけは間違ってない。
「……圭介っ、」
こんなところにはいられない。
私も圭介のそばにいたい。
そう思って立ち上がろうとしたけど
「真希っ!」
お父さんの大きな声に、体が固まった。
お父さんにこんな風に大きな声で怒られたことなんて、一度や二度じゃないのに…体が動かなくなった。
……でも、お父さんはすごく辛そうな表情で、私を見ていた。
「真希…、病室へ戻ろう」
「えっ…、や、やだ!
圭介の近くで、圭介が目を覚ますのを待ってる!」
「真希!……このままじゃ、圭介くんのことを忘れてしまうぞ…?」
「……え?」
なに、どういうこと…?
圭介の部屋へ向かった足が、踵を返す。
その言葉の意味がわからなくて…
「…真希な、圭介くんのことで精神的ショックが大きいだろ。
だから…真希の脳が、自分を守ろうと記憶を消しているんだ」
「え…、なにそれ…
意味わかんな…
だ、大丈夫だよ!だって私、お父さんのこともちゃんとわかるよ…?」
将希のことも、圭介のことだってもちろんわかるよ…?
「…でも、将希が警察へ行ったことは覚えてないじゃないか
他にも、覚えてないことあるんじゃないか…?」
覚えてないこと…
……まぁ…でもどうして今ここにいるのか…
わかってない、かも……
「……これ以上、苦しむことを選ぶな。
ショックで倒れるってことは、それだけ脳が苦しんで、自分を守ろうとしたんだ。
限界を越えたら、お前は
……圭介くんのことを、忘れてしまうぞ。
それでもいいのか…?」
……忘れる?え、なにそれ…
意味わかんないよ…
「圭介くんは、決してそんなことを望むような人じゃないんだろ?
……今は、圭介くんのためにも病室へ戻ろう。」
そういって、お父さんは私の手を引いて歩き始めた。