君がいて、僕がいる。
それからは、夜までずっとお父さんが病室にいてくれた。
話は全部、将希から聞いたみたいだけど…
「……あのね、お父さん」
「ん?なんだ?」
私も、久しぶりにお父さんといろんなことを話した。
こんなにも一緒にいることがここ数年、ずっとなかったし
話そう、なんて思いもしなかったのに。
「…私ね、昨日夢見たんだ。
泣きながら、圭介にいかないでって叫んだ夢。
……あれが、今日の出来事にすごく似てて…
あの夢の続きが、気になって仕方ないんだ」
もう、あんまり覚えてない。
だけど私は確かに夢の中で、圭介に『行かないで』と叫んでいた。
その意味もわからないまま……
「夢の続きか…それはお父さんにもわからないけど、でも
それは夢であって、現実じゃない。
だから、あんまり気にしなくていいんじゃないか?」
「……そう、だよね」
でも…やっぱり怖いんだ。
圭介が逝ってしまうんじゃないかって
怖くて怖くて、仕方ないんだ…
「……あのさ、圭介の状態…どうなってるの?
不安定な状態って…?」
私がそう聞くと、お父さんは私に目線を向けた。
そしてそのあとすぐ浮かべた悲しい表情…
……もしかしたら、私はもうすでに説明を受けたのかもしれない。
そう、悟らざるを得ない表情だった。
「……今は、自分のことだけを考えてゆっくり休め」
お父さんはそれだけ言って、それ以上語ることはなかった。
「真希~」
そんな静かになった病室に、またひとつの声が加わる。
「あ、将希おかえり。
……優斗くんも行ってたんだね…?」
「え?あぁ…うん」
あ、やばい。
そう思った。
また私は、知っているはずのことを知らずに聞いてしまった。
みんなの表情で、それがすぐにわかる。
……忘れる、か…
記憶障害的なやつなのかな…
でも、お父さんのことも将希のことも、優斗くんのことだってわかる。
圭介のことだってわかるし、1番感じんな今日の出来事だって鮮明に覚えている。
本当に私の記憶は少し消えてるのか、ちょっと疑わしいくらい。みんなして、私を騙してるんじゃないかとすら思えてくる。
「……真希、お父さんは母さんの病院行ってくるな。
将希はどうする」
「…俺は真希についてるわ」
「僕が将希くんを家まで送り届けます」
将希と優斗くんがそう言うと、お父さんは頷いて、私に「ゆっくり休めよ」といって病室を出ていった。
「真希ちゃん、気分はどう?」
「私は全然…、なんでここにいるのか不思議なくらい元気なんだけど…」
「全然元気じゃねぇだろ。大丈夫じゃねぇだろ。
……神谷さんの病室にいたとき、今にもぶっ倒れそうな顔してたくせに」
「え?」
……圭介の病室に、いた?
え、私も中に入ってたってこと…?それとも、病室の前にいたときのこと?
……どっちかわからないけど…それを将希に聞くことはできない。
私がまた記憶が消えてると思われたくなくて…
「そうだね。……さっきより、顔色もいいかな…
本当さっきまで真っ青だったから」
「…そっか」
でも、ふたりは強いな…
将希だって優斗くんだって、圭介のことが大事なのに、今でもしっかりしてる。
……私だけじゃん、倒れてるの。
私は弱いな…もっと、強くならなきゃなのに…
今でも、さっきの出来事を思い出すと涙が出てきそうになる
「……ねぇ、圭介についてなくていいの…?」
「神谷のとこには今祖父母さんがついてる。
俺らがいたら、邪魔な気がして」
「え、おじいちゃんとおばあちゃんが?」
「うん。目が覚めたら呼びに来てくれるって」
「……そっか」
おじいちゃんとおばあちゃん、田舎から出てきたんだ…
そうだよな…ご家族を呼んでくださいって、あの医師も言ってたし…
唯一の、身寄りだもんね
「……あの、さ…
圭介って今、どういう状況なのか聞いてもいい…?」
私の言葉に、将希の顔が歪む。
……やっぱり、私は忘れちゃってるみたい。
でも、忘れたなら何回も聞けばいい。
何回でも知ればいい。
ただ、それだけのことだ。
「将希、お願い。
さっき聞いたけど…なんかボーッとしちゃって頭に入んなくて…
だから、もう一回ちゃんと知りたいの」
私がそういうと、すごく小さな声で「なんだ、そうだったのか」と優斗くんが呟いた。
少し安堵な顔をした将希は椅子に座って、話してくれた。