君がいて、僕がいる。
ヒタヒタと、静かな空間を私たちの足音が侵す。
明るいナースステーションだけ隠れるように通り抜けてエレベーターに乗り込んで、私たちは圭介の病室を目指した。
「ここだよ」
ついたのは5階、私の入院する病棟のちょうど上だった。
部屋の前には確かに、『神谷圭介』の名前が書いてある。
私は一度深く深呼吸をして、病室のドアに手をかけた。
「真希、……覚悟、できてんの?」
「は?…なんの?」
「確実に、真希の記憶はなくなってるところがある。
これ以上、この現実と向き合って、忘れてしまうことをだよ。
もしかしたら、神谷さんのことすら忘れるかもなんだぞ。……本当にいいのかよ」
将希のその言葉に揺らぐ私は今はいない。
なんでかわからない。けど…「大丈夫。」なんとなく、私なら大丈夫な気がしたんだ。
「圭介のことは忘れない自信がある。」
だって、今までのことだって、圭介のことは全然忘れてない。
将希や優斗くんのことや、他のことなら何個か忘れてしまったことがあるかもしれない。
…でも、圭介と過ごした時間、圭介のあの事件、その時交わした言葉の数々
そして、そのあとのことも、全部……
辛いくらい、私の心に残ってる。頭に残ってる。
だから、絶対大丈夫だよ。
「……わかった。
そこまで言うなら止めねぇよ」
そういう将希の表情が少し和らいだところで、私は軽く深呼吸をしてドアを開けた。
ここも個室だけど、しっかりとカーテンが閉められている。
私はそのカーテンに手をかけ、そっと開けた。
「けい、すけ……」
静かに、寝ている。
……だけど、取り付けられた機械や、酸素マスクが…
「……真希っ、」
私の視界を揺らがす。
見た目はきれいなのに、圭介に取り付けられた数々が、事の深刻さを物語っていて、私の目には涙すら浮かばない。
「……っ、大丈夫。
しっかり向き合いたい」
私はそういって、崩れ落ちそうになった私を支えてくれた将希の手を払った。
辛いことがあったら私も一緒に戦う。
そう、圭介に誓ったもん
こんなことで負けていられない