君がいて、僕がいる。



……でも、私は思わず手をすばやく離した。
圭介の手は、私の手を握りしめている確信がなくて…

もしかしたら、圭介は違う人を想いながらこの手を握っているのかもしれない

そう思ったら、離さずには
……離れずには、いられなかった。


「……真希?」

「…ごめっ、」


後退りする私に不振に思った将希はこちらを心配そうにみたけど、私は窓側まで下がって、足が崩れ落ちた。

さっきまで、辛いことがあったら私がそばにいる
私が圭介の手を掴む
そんな偉そうなこといっていたくせに、いざぶつかると、自分がまた傷つくのが嫌で、逃げてしまったんだ。


「……まさ、き…」


だけどその時、確実に、圭介の小さな声が聞こえた。
聞き間違えるわけない、圭介の声だった。


「神谷さん!」

「……俺…」


確かに感じる、圭介の気配と声に、私の目からは泪が溢れる。
窓際で崩れ落ちた私は、どんどん小さくなる。

意識が戻った
圭介が生きてる

その事実に、私はうずくまって泣くことしかできなかった。


「神谷さん…っ、よかった…、」


そういって、将希もベッドに手をついて崩れ落ちた。


「あ…、今ナースコールを…」


そういいながら、将希は立ち上がってベッドにかかったままのナースコールを押した。


「将希…、あの、あと…真希は…」


その言葉に、私は一瞬固まった。
でも、私のことなんかを気にかけてくれるのが嬉しくて…私の目からドバっと泪が溢れた。

こちらを見た将希に、私は必死に首を振る。
こんな顔見られたくない。その一心で。


「……真希なら大丈夫です。
なにもされてませんよ」

「……そ、よかった」

「熊谷も捕まりました。
……大丈夫ですよ」


そういったところで、看護師さんが部屋に入ってきた。
そこからはもうバタバタで、看護師の出入りが激しかったり、医師が入ってきたり。

私は、それに紛れてこの部屋から出ようと立ち上がった。
圭介に気づかれたくなくて、少しうずくまりながらだけど…ここにいるわけにはいかなかった。

そんな私の様子をみて、将希も私の方へと来た。


「神谷さん、俺一回真希の様子見てくるんで」

「…真希、どうした?」


辛そうに、弱々しく、でも確実にその声は私まで届けられた。


「……真希、神谷さんのこと心配しすぎて倒れたんです。
でも、けっこう元気なんで、心配しないでください。
ここに入院してますけど、すぐ退院するんで」

「将希」


圭介の呼び止める声に、将希は私をトイレのドアの前にたたせて圭介のところへと戻った。
個室のこの部屋。だけど、トイレの前までくると圭介の足元くらいしかもう見えなかった。


「はい。……真希に、なんか伝えますか?」


< 209 / 248 >

この作品をシェア

pagetop